天気のいい日が続いている。気持ちのいい秋晴れ。山口までの往復では、あちらこちら、すすきやセイタカアワダチソウの原っぱがひろがっていた。日に輝いて、せつないようななつかしいような景色だった。
 
 10月の日曜日だった。祖父の死んだ日。こんなふうな天気の日。私は5歳で、昼ご飯のあと、いつものように祖父の膝の上にすわっていた。突然、母の叫び声がして、私は膝から降ろされた。頭上で祖父の「まわるまわる」という声がして、そのままベッドに倒れこんだ祖父はベッドの柵をつかんで体をゆらしながら「まわるまわる」と何回か言って、それっきりだった。それから2階の祖母を呼んだり、仕事場の父に知らせるために、電話を借りに行ったり、医者を探したり、忙しそうな大人たちのなかで、祖父だけ動かずにいた。翌日、棺が運び出された。「じいちゃん、どこへいくの?」と訊いたら、「遠いところ」と誰かが言った。土間に祖父の杖が残っていた。遠いところに行くのに、じいちゃん、杖がなくて大丈夫だろうか、と思った。散歩のとき、祖父に杖を渡すのは私の役目のようで、私はそれをすこしだけ誇らしく思っていた。
 持ち手のところがくねくねと曲がった変わったかたちの杖だった。
 
 すすきやセイタカアワダチソウの原っぱ。その向こうに杖をついた祖父も、死者たちもいるような。