一人はあかりを

 眠るときに、部屋のあかりを消すのは子どもの係りだ。消したからといって寝てくれるとは限らないし、消して真っ暗になると「まっくろくろろすけ!」とはしゃいでうるさかったりもするのだが。ともあれ電気を消すのは自分、と決めていて、ついうっかり私たちが消すと、泣いて抗議して最初からやりなおし。そして、どうかすると、子どもより先に私が寝ている。……立原道造の詩を思い出した。いつかきみも、ここを出てゆくだろうけれど、兵士になってはいけない。けっして戦争に行ってはいけない。
 
  小譚詩  立原道造

一人はあかりをつけることが出来た
そのそばで 本をよむのは別の人だつた
しづかな部屋だから 低い声が
それが隅の方にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)

一人はあかりを消すことが出来た
そのそばで 眠るのは別の人だつた
糸紡ぎの女が子守の唄をうたつてきかせた
それが窓の外にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)

幾夜も幾夜もおんなじやうに過ぎて行つた……
風が叫んで 塔の上で 雄鶏が知らせた
――兵士(ジアツク)は旗を持て 驢馬は鈴を掻き鳴らせ!

それから 朝が来た ほんとうの朝が来た
また夜が来た また あたらしい夜が来た
その部屋は からつぽに のこされたままだつた