にんげんのこども

   みかん   楠 繁雄(10歳)
 
ちいさいみかんは
みかんのこども
ぼくは
にんげんのこども
 
 『どろんこのうた』(沖野猛編著、1981年出版)より。
 みかんの時期になると思い出す、大好きな詩だ。『どろんこのうた』は、野村学園(愛媛の知能障害児施設)の子どもたちの詩をまとめた本。
 
 うちにいる、にんげんのこどもは昨日3歳になった。午前中、「なんさい?」「3さーい」の特訓をする。おじいちゃんおばあちゃんからお祝いが届いたので、お礼のおてがみを書く。スプーンや鉛筆をじょうずにもてなくても、パソコンはキーを押すだけで、字がかけてしまう。いつものように「くま」からはじまって、あれこれ単語をならべたり、自由にキーを押している途中に、「おじいちやん おばあちやん ありがとう」をさしはさむように、耳もとでささやいて誘導する。はがきに印字してあいたところに絵をかかせて、切手を貼ってできあがり。はがきを出して、ケーキを買って、誕生日とする。ちびさん、ケーキを食べるときは、自分でスプーンを握っていた。
 
 兄から冬以来の電話。子どもの誕生日を覚えていてくれたことに驚く。うれしい。お祝いしてやりたいけど、できんから、気持ちだけ贈る、かんべんして、と笑う。赤ちゃんのときに会って以来だから、相手がだれだかわからないまま、子どもは受話器に向かって、アルファベットだの数字だのしゃべっていた。(ちびさん、おじいちゃんではなくて、おにいちゃんと呼んでほしいそうだよ)。久しぶりに誰彼の消息を聞く。他人事ではないが生活は厳しい。釣り好きの叔父が海から釣ってきた魚ばっかり食べてたって。そっちは海があるからいいねえ。ともあれ元気そうでよかった。生きていればいいし、元気ならいいのよ。