おもちゃ屋のはしご

 朝夕寒くなってきた。冬支度を急がなければ。
 
 デパートのキッズコーナーは、まず例外なくおもちゃ屋の近くにあり、おもちゃ屋では、見本の機関車やレールのおもちゃで遊べるようになっていて、子どもはそこに貼り付いて動かない。他の子がいても一緒に遊ぶでもなく、ただひとりでひたむきに機関車を走らせる。まわりの子どもは気圧されて、あるいは飽きていつのまにかいなくなっているが、そんなことおかまないなしに、きっと親のことも忘れて、子どもは機関車を走らせる。帰ろうと声をかけても聞こえないふりで、抱き上げると泣いて暴れる。そんなに命がけで遊ばなくったってよろしい。
 衆目のなかを、泣く子をひきずって歩くのは、気持ち的には全然平気だが、体力的にはかなりしんどい。細かな買い物で、店を3か所まわって、そのついでに、子どもをおもちゃ屋で遊ばせていたのだが(遊ばせるだけで何にも買わないのだが)、おもちゃに貼りついた子どもを3回引き剥がして、3回泣かれた。
 
 夜は夜で、寝転んで絵本を読んでいて、ごはん、と呼んでも聞こえない。何度呼んでも聞こえない。歯磨きとなるといびきをかいて寝たふりをする。きみがさっぱり言うことをきかなくなったのは、それはそれで楽しいんだが、もう若くないおかーさんは毎日くたびれるから、適当にしておいてください。
 
 毎日、あれやこれや叱られて子どもは泣くんだが、泣いたあとに、「ごめんなさい、なかなおり」と言うときはあっけないほど素直で、うそのようにけろっと泣きやんでいて、さっきまでの頑固な抵抗は、いったいなんだったんでしょう。