大正15年

 昨日の午後、近くの集会所でカラスの会の催しがあるというので、行ってみる。カラスの会といっても、カラスとは関係がない。このあたりではたぶん名の知れたまちおこしグループだ。地域の古い写真や映像をずいぶん集めて、展示上映などしている。平日の昼間というのに、集会所はいっぱいで、おおかたは老人会の人たちのようだったけれど、生まれてまもない赤ちゃんを抱いたお母さんもいた。犬を抱いているおばさんも。
 大正15年というから、80年ほども前のフィルムが10年ほど前に見つかったらしく、それを編集したものを見せてくれる。昔このあたりを走っていた軽便鉄道(という名前もはじめて聞く)の映像に、子どもが「がたんごとん」と声をあげる。馬力がないので、ときには客が降りて汽車を押してやらなければならなかったらしい。川をゆく小船や筏。田んぼの道の子どもたち。女学校のダンスや、小学校の運動会。軍事教練の子どもたちは、その後、ほんとうの戦争に行ったのだろう。どの場所と説明されても、私にはさっぱりわからないが、けっこう吸い込まれるように見入ってしまった。見回すと涙を拭いているお年よりたちもいた。子どもは、近くにいた犬にさわったり、おじいさんに折り紙を折ってもらったりしていた。
 カラスの会の呼びかけで、地域の古い写真は千枚も集まったのだという。生まれ育った土地への愛着は、そのまま人生への愛情でもあるのだろうと、年配者の活動の話を聞きながら、思った。故郷は、失うほかないものと私には思えているのだけれど、失わずにすむ人たちもいる、生まれた土地でずっと暮らして死んでいく人たちもいるのだと、すこし不思議で、すこし羨ましいようだった。
 子どもがじっとしているのに飽きたようなので途中で出たのだけれど、帰り際、サランラップをふたつももらった。参加者へのお土産らしい。なんでもないことが、ふとうれしい。
 
 たぶん例年より遅いけれど、神社の大きな銀杏の木も色づいている。かすかにギンナンのにおいもする。晴れていて、山の紅葉がとてもきれい。
 いつのまにか、庭のさざんかも咲いている。もうすこしで冬がくる。
 
 
さまよへ私の魂
春から冬までたどりつけ
 
      小熊秀雄「まもなく霜が来る」から