メリーさん

 雨だ。庭の落ち葉が濡れて、靴にからみつく。向かいの森で、ときおり小鳥の鳴く声がする。
 冬の雨。こういう日はこたつに入って、歴史小説でも読んで過ごすのがいい。
 今読んでいるのは、スコットランドの女王、メリー・スチュアートの伝記小説。
 タータンチェックなどのスコットランドものが女の子たちの間にはやったのは中学生の頃だ。たぶんそのころ人気のあった音楽グループ(なんだっけ。名前を思い出せない)の影響だった。あの頃、傍らにいた友人たちは、どうしているだろう。卒業のときのサイン帳に、ビートルズの「イマジン」の歌詞の日本語訳を書いてくれた女の子は。
 私の頭のなかの、むかし世界史で習ったきりのあやふやな記憶のなかに、メリーという少女が降り立って、その運命を生きはじめる。けっこう引き込まれて読んでしまう、この引き込まれてゆく感じが好き。小さな小さな子どもだった頃にあこがれたヨーロッパのお姫様たちだが、実際の運命は、たいていは悲劇だと、今さら気づいたりする。
 こたつにもぐってメリーさんの話を読んでいたら、子どもがやってきて、本をもっていって隠してしまった。
 そうですね。読んでいる場合でもないか。続きはきみが寝たあとだ。