C.C.C.P.

 電子辞書も子どもの遊び道具になっている。もらったまま誰も使わないでいたものだが、子どもがそれで遊びはじめたら、パパが自分のために新しい電子辞書を買ったのが、なんだかおかしい。

 子どもは生意気に英語のスペルゲームをするんである。隠されている文字をあてる遊びだが、当たる確率は26分の1。圧倒的に間違うほうが多いわけだが、間違うと、しまった、というように片手で顔を隠している絵が画面に出る。子どもはその格好を真似して、すごくうれしそうにしている。たまさか、正解がでたりすると、両手を広げて喜色満面。正解でも不正解でも楽しいのだから、めでたいことである。
 それでも不正解ばかりつづくと、正解がほしくなるらしく、「ママ、せいかい」ともってくる。もってこられても、ママの正解率も、きみとあんまり変わらなかったりするのだよ。ごめんな、と言うと、子どももまた、ゲームオーバーした画面に向かって「ごめんなさい」などと頭をさげている。
 
 アルファベットを適当に押して、OK ボタンを押すと、単語が出て、さらに訳も出る。訳が出ても漢字だと子どもは読めないが、何か出てくるとうれしいらしいのだ。 子どもはそうやって自力で英単語を探しあてた。
 さて、彼が最初におぼえた英単語のスペルなのだが、なんと「CCCP」である。OK ボタンを押すと、「C.C.C.P.」となる。ソビエト社会主義共和国連邦のこと。ロシア語では「C.C.C.P.」は「エスエスエスアール」と読む。子どもはとても自慢そうにそれを見せて、自分の探し当てた言葉が何なのかを知りたがるが、いったいなんて説明すればいいんだか。
 きみが見つけたものは、いまはもうなくて、それはきみが生まれるずっと前の、前世紀のお話なんだが、うーん、むかしむかし、「C.C.C.P.」というくにがありました……。