冬の森

 夕方、近くのポストまで、といっても坂道10分くらいは歩いて、郵便を出しに行く。帰り、冬枯れの空き地を散歩する。さくさくと足の裏で枯草の音。
 向かいの森の葉を落とした木々の隙間から、庭の奥のロダンの「考える人」の像が見える。夏の頃は、草木の茂みがじゃまをして、見えなくなっていたのだ。この庭の持ち主が亡くなって、もう15年くらいにはなるんだろうか。今は荒れ果てた森も、持ち主が生きていた頃は美しい庭だったらしい。夏には何度か遺族が来て、茂りすぎた木々を刈っていくが、とても追いつかない。そこに住む人がいなくなった以上、きっともう美しい庭にもどることはないんだろう。いまは、地面はいちめん、もみじなどの落ち葉で覆われている。いちめんの、ものすごくたくさんの落ち葉。小さな鳥たちが、梢から梢へ渡っていく。
 
 たどりつかないたどりつかないざばざばと月の匂いの枯葉の中を  
                  佐藤弓生 『眼鏡屋は夕ぐれのため』