ピングーさん

 壊れたおもちゃをなおすのに、午後いっぱいかかった。踊るピングー。去年のいまごろ、おじいちゃんが買ってくれたものだが、子どもが投げたら、足が折れたんである。ぬいぐるみの糸をほどき、布をはぎ綿をとりだし、折れたプラスチックの足を見せたら、子どもは大泣き。そう、きみが壊したんです。かわいそうなピングーさん。
 添え木をして接着剤で、と思ったが、くっつかない。プラスチックの足の上下に錐で穴をあけて、針金を通してしばることにする。その作業をしている間に、今度は足首のねじが取れたりしたが、なんとかなおった。すぐに倒れるのはしょうがないと思ったが、ごきごき動かしているうちに安定してきた。なんとなく、もとどおり。
 
 壊れたおもちゃで思い出した。小学校のはじめ頃、帰省した兄が買ってきてくれた大きなオルゴール人形。白いドレスを着た人形がオルゴールにあわせてくるくるまわるのだ。曲はエリーゼのために。しばらくの間、枕もとにおいて、オルゴールを聞きながらねむった。とても気に入って大事にしていたのが、あるとき、オルゴールのねじにあたる、ドレスの裏のプラスチックが割れているのに気づいた。あのとき、私は弟が踏んで壊したんだと言って怒ったり泣いたりした。本当にそう思ったのだ。
 しばらくしてから母が、弟は壊していないといっている、と言いにきた。よく考えなさい。自分が踏んだか何かしたんでしょう。そんなはずはない、お兄ちゃんにもらったお人形を私が壊すはずがない。でも、言われてみれば足の裏に、何かを踏んだ記憶がある。バリッと音がしたような気もする。たぶん、私なのだった。
 あの人形はそれからも、壊れてまわらなくなったまま、いつまでも家のなかにあった。何年もたって、首がとれて、あちこちにころころ転がるようになっていたのを覚えている。白いドレスが黄色くなっていて、そうして、いつともわからないある日、処分されたのだ。
 
 それにしてもちびさん、きみはなんてたくさんのおもちゃをもってることだろう。片付けようにも片付かないので、まとめてベビーベッドに積み上げている。なんだかため息がでる。