夜汽車

 「時が、われわれの本当の判定者である。誕生と死を分かつものは、秋に散る葉、通り過ぎる雲、飛ぶ鳥、夜の闇の中を急ぐ列車、微笑み、涙、やさしすぎることの痛みである。」
  『カメラの旅人 ある映画人の思索と回想』ポール・コックス著
 「ある老女の物語」の監督がその半生を振り返りながら書いた本。表紙の写真がいい。公園のベンチに、ひとりで、夢見るようにすわっている小さな少女の。
 読んでいるうちに、こんなイメージが浮かんだ。どこへ行く旅だったのか、夜汽車に乗っていて、子どもの私は半ば眠っている。ときどき目を開けるが、汽車はまだどこにもつかず、傍らの母の顔だけを見てまた眠る。眠りのなかを夢がながれ、なんだかとても長い旅だ、夢の切れ間、とぎれとぎれに母の顔が浮かんでいる。