アストライムしんかんせん

 とっても久しぶりに、たぶん何年ぶりぐらいに、アストラムラインに乗った。市内と郊外をつなぎ、地下と高架を走る電車。子どもは遠くを走っているそれを、何を思ったか「けむししんかんせん」と呼び、アストラムラインというのだと言うと、「アストライムしんかんせん」と言う。何がなんでもしんかんせんに乗る気らしい。乗ると「しんかんせん、はやいねえ」とうれしそうだった。
 それにしても子連れの外出は疲れる。帰りはもう、口をきく気力もないが、子どもは出かけたときより元気で、アストラムラインを降りて、あとはもう家に帰るだけとわかると、「おうちかえるの、いや」と泣くのだ。泣いて泣いて泣いて泣いて、涙だけでは足りないらしく、飲んでいたペットボトルの水を自分の体にも、車のなかにも撒いたことだった。これは相当がんこな子どもだ。泣きながらも「おうちかえるの、いや」と言いつづける子に、「でもさ、お家よりほかに、帰るところはないよ」と言ったとき、ああ、ほんとうにほかに帰るところはないと、ふと、はかない気持ちがする。
 ようやく外も暗くなってきて、家に着く頃にはすこし、ちびさんもあきらめたようだった。もうしばらく、このお家に帰るほかないはかなさを、わかちあってください。