黄砂

 春霞、というには、空気が粉っぽい。黄砂だろう。
 郵便局と区役所へ行くのに、出かけるよ、と言ったときには、「いかない」と言ったくせに、外へ出たら今度は「おうちかえらない」と泣く。むりやり家に入れたが玄関でなぜかほうきをもって立っている。しようがない。しばらく庭の草引きと水やりを手伝わせて、ちびさん、花より自分に水をかけるのだが、びしょぬれになったら、ようやく自分から家のなかにはいってくれた。向かいの森の桜が、風で散ってくる。どこかでものを焼いている灰が散ってくると錯覚したのも、黄砂のせいだろう。
 死者たちはこの桜を見ないのだと、ふと思った。あの人はこの春の桜を見ないと思ったときに、ああ、ほんとうに死んだんだ、と思った。
 うぐいすが鳴いている。