トランプしんかんせん

 数日前、ガソリンスタンドの景品でトランプをもらった。ディズニーキャラクターのスティッチの絵だったので、子どもにあげた。
 パソコンのトランプゲームと「不思議の国のアリス」の絵本の絵で、トランプにはなじみがある。さっそく遊びたがる。とはいえ、ゲームはまだ無理。とりあえず、数字を並べるだけなのだが、けっこう楽しそうに遊ぶのだった。数字を順番に並べていく。6と8の間には7が入る、とか、それくらいのことはわかるようだ。ときどき間違う。たぶん集中力が続かなくなるのだろう。すると、間違えたカードを隠すのである。背中の後ろ、くらいならかわいいが、たんすの下とかテレビの後ろとか。紛失するにちがいないから、やめてくれ。それから、袖のなかに隠すなんてことは、どこで覚えたんですか。手品でなければ、いかさまだ。
 あとはひたすらカードを長く並べて、トランプしんかんせん。
 
 ふいに思い出したのは、小学校1年のときの国語のテスト。点数がよくなかった。それで、間違ったところをテストの裏にもう一度書いて明日もってきなさいと言われたのも忘れて、家の前のどぶにテストを丸めて捨てて帰った。翌日、書き直しの宿題を提出するときになって、はじめて、困ったことになった、と気づいた。忘れた人はまた明日、と言われたが、明日になっても私はそれを提出できない。
 困って、家に帰って、しかたなくて母に打ち明けた。おかあさん、どうしたらいいんだろう。当然、問題のテストをどうしたのかと問い詰められ、家の前のどぶに捨てたといったら、母はさっそく、長い棒をもってきて、どぶさらいをはじめた。ひどいにおいがした。出てきたテストを、水道で洗ったが、緑色に汚れているのは、どうしても落ちない。それでも母はそのテストをガラス戸に貼り付けて乾かして、私に宿題をさせたのだ。そうして翌日無事に提出できた。どぶ臭い緑色のテスト用紙。
 あのどぶには、いろんな都合の悪いものを、ずいぶん捨ててきた気がする。担任と親との連絡帳は何冊もなくしたが、半分はあのどぶのなか、半分は、通学路の途中の大きなゴミ収集箱の中。
 ちびさん、きみもそういうことをするようになるんだろうか。覚悟しておこう。