続・弟

 弟が、海を渡ってやってきた。昨日の夕方、いきなり。港の近くの古い知人の家に泊まるという。まったく来るなら電話ぐらいしろって。相手の都合も考えないやつである。しょうがない、港のほうまで(片道2時間かかるのだ)、夜、会いにゆく。
 会う度に、驚くのだ。弟って、こういう顔をしていたのか。記憶のなかでは、なぜか子どもの頃の姿のままで、ときどきは会っているのに、別れたあとでは、記憶はまた、子どもの頃の姿に修復されているようで、だから、数年ぶりに会うごとに、驚いてしまう。
 両耳とももう聞こえないらしい。だから声が大きいのだ。工事現場の騒音のなかで働きつづけてきたからだろう。職業病みたいなもんだが、何の保障があるわけではない。補聴器をつけて、片耳だけ聞こえるようにしていると言う。
 
 今朝、海を渡って帰っていった、という。