「オーベルニュ人に捧げる唄」

 とても久しぶりに、ジョルジュ・ブラッサンスのCDを聴いた。たぶんもう15年ほども前に買ったもの。子どもが、CDを積み上げてあるなかから、ひっぱりだしてきたのだった。2枚組。曲解説の冊子に、塚本邦雄が「ジョルジュ・ブラッサンス考」という文章を寄せていることには、いまのいままで気づかなかった。
 「オーベルニュ人に捧げる唄」というのが好き。
 
 「オーベルニュ人に捧げる唄」
 
この歌は君に捧げる歌
ぼくが人生の冬にいた時
オーベルニュ人の君はこだわりなく なにがしかの薪わけてくれた
村の男共女共 みな善い人なんだろうが ぼくに門前払い食わせたとき
君は暖を貸してくれた 
わずかばかりの薪だけのこと でもそれでぼくの身体は温まって
今だにそれはぼくの心に 喜びの火となって燃えている
 
オーベルニュの君が死んで 葬儀人夫に運ばれて行く先は
きっと天上の父なる神の御許でありますよう
 
この歌は君に捧げる歌
ぼくが人生で食べるに事欠いた時
女将さんの君はこだわりなく なにがしかのパンわけてくれた
村の男共女共 みな善い人なんだろうが 食べるもの無いぼくを見て馬鹿にした時
パンびつを開いてくれた
わずかばかりのパンだけのこと でもそれでぼくの身体は温まって
今だにそれはぼくの心に 饗宴となって燃えている
 
女将さん 君が死んで 葬儀人夫に運ばれて行く先は
きっと天上の父なる神の御許でありますよう
 
この歌は君に捧げる歌
ぼくが憲兵に逮捕された時
見知らぬ君はこだわりなく 悲しげな様子でぼくに微笑んだ
村の男共女共 みな善い人なんだろうが 連行されるぼくを見て嘲笑った時
 
君は喝采しなかった 
わずかばかりの優しさだけのこと でもそれでぼくの身体は温まって
今だにそれはぼくの心に 太陽となって燃えている
 
見知らぬ君が死んで 葬儀人夫に運ばれて行く先は
きっと天上の父なる神の御許でありますよう