漢字学の権威、白川静氏の著した字源辞典『字統』。
 そのなかの「道」という字をひくと、「首を携えて道を行く意」とある。
 道は外の世界に通じる。そこには邪悪な霊に接するところでもある。そのためのお祓いとして、虜囚の首を携えて歩いたというのだ。首はもっとも強力な呪的な力をもつと考えられていたからだ。
 「このようにして啓かれたものが道であり、人が安んじて行くところであるから、人の行為するところを道といい、道徳・道理の意となり、(略)道は古代の除道の儀礼の意より、次第に昇華して、ついに最も深遠な世界を言う語となった」
 
 17歳の少年が、母親の首を切断して持ち運んだというニュースに、「道」という字を連想した。
 昔、戦争したい、人を殺したい、と言っていた男の子が友人にいたが、それはそれで、せつない事情もあったろうが、言うだけですんで幸いだった。
 邪悪な霊は、外の世界ではなく、内なる世界に棲むだろう。少年は、そこへつながる道を辿っていってしまった。
 少年が虜囚として扱えるのは母しかいないだろう、その母の首を携えて。