恐竜の名前

 「ママー、アスペルガーたべないの」
 「?」 
 (アスペルガーはもちろん食べれませんが)と思ってふりむくと、テーブルにはアスパラガス。これのことですね。
 きみはアスパラガスも食べてくれませんが。
 アスペルガー、アスパラガス、ガラパゴス、ゴスペル、
 アスペルガー、アスパラガス、ガラパゴス、ゴスペル、
と、つづけてみたら、なんか全部、恐竜の名前に思えてきた。
   ☆
 ちびさん最近、ひとりごと多い。私にも記憶があるけど、あれはたぶん、自分の言い方が気に入らなくて言い直しているか、喋りつづけていないと喋れなくなりそうなので言い続けているか、どちらか、あるいは両方だな。同じ言葉を、壊れたレコードみたいに繰り返してる。放送部の部活みたい。
 言葉の表情は、なんとなくわかっているようで、「こんなにしあわせでいいのかしら」(出典、アンパンマンのまんが)というときはうっとり、「ぎをみてなさざるはゆうなきなり」(出典、論語の絵本)は、強く断定的に。
 ひとりごと言う子は、黄色い車につれていかれるよ、と、昔祖母に脅されたもんだった。つれていかれると、檻のなかに閉じ込められて、もうお家に帰れないんだそうだ。それで、通りに出たら、黄色い車に見つかるかもしれないから、通りには出ないように、通りから見えないように気をつけながら、祖母の家の脇の暗い通路を、行ったり来たり行ったり来たり行ったり来たりしながら、しゃべりつづけていた。
    ☆
 テレビのコマーシャルで「人間は一人では生きられない」と言っていたら、テレビに背を向けて日本地図のパズルをしていたちびさん、突然顔をあげて「そのとーりー」と叫ぶ。
 そりゃまあ、そのとーりーなんだが、なんかもう、おかしい。
    ☆
 「ママ、こうしてこうしてこうして」と人差し指を動かして、人を指図する。昔アウシュビッツで、ガス室行きの選別をしたなんとか医師の白い手袋が遠くに見えていた写真を思い出して、ムカつくので、相手にしないでいたら、ちびさん、泣きそうな顔をして、言った。
 「ママー、りくちゃんはちいちゃくて、てがとどかないの、ママはおおきくて、とどくから、ママがとってよー」 
 おお、ちびさん、きみは絵本の文章の記憶は一冊まるごとするけれど、自分の言葉で、こんなに長い文章を喋ったのははじめてではないだろうか。
 おもちゃをとってほしかったんですね。はいはい。