道草

ちびさん、今日もつつがなく幼稚園バスに乗った。やれやれ。
空き地でカンゾウナとカラスノエンドウを摘む。
道草くって帰ったわけだ。ぬたとおひたしにして、食べます。

ふるさとや石垣歯朶に春の月  芝不器男
永き日のにはとり柵を越えにけり    

この時期になると思いだす。そうして帰省したくなる。同郷なのだ。春がいちばん、故郷がなつかしい。とはいえ、帰りづらい事情もいろいろあるわけだ。ひとりで帰るのは問題ありそうだし、家族連れで帰るのも面倒至極。金もないし。泊まるところもないし。
誰かに会いたいとか、そういうことは全然ないのだが、ただ、あの風景のなかに帰りたい。誰にも知られないで、昔、秘密基地をつくっていた裏山あたり、あるいは別の山の桃の花の下あたり、あるいは菱の実の浮いていた沼のほとり(菱笛つくって鳴らしていた)、竹林のなか、そんなところで、ぽかぽか春の日を浴びていたい。誰にも見つからないで。昔そうしていたみたいに、ひとりで。ぼんやり。ぼーんやり。
遠くに鬼が城を見て。春の永い日を。