寄り道

雨。
朝、子どもを送るのに、坂道をのぼりおりするのがけっこう楽しい。
子どもは楽しげ、というわけでもないが、わりとせつなそうだったりもするが、まあ、なんとかバスに乗ってゆく。春の、しずかな雨の、けぶる山のみどりや、水の匂い、風の音、鳥の声。そういうものが、ちびさん、きみの体の一部になって、きっときみの人生の味方になるよ。みんなと一緒に歌ったりお遊戯できなくてもいいから、教室の窓から、外の雨でも見ていなさい。
子どものころ、道端の草やら垣根の葉っぱやらちぎりながら歩くから、指がいつも緑色だった記憶があるんだが、子どもをバスに乗せたあと、気づくと、葉っぱちぎりながら歩いていた。手がよもぎのにおい。
子ども、なんでもない道を、右にいったり左にいったり、階段をのぼったりおりたりぐちゃぐちゃに蛇行しながら歩くんだが、私も似たようなもんなんである。道端に野生化したミントをみつけて、ちぎって帰って、お茶にしてみたが、草くさいばっかりだった。
 
  二十日まえ茜野原を吹いていた風の兄さん 風の母さん(笹井宏之)