身体測定

昼間、幼稚園から帰ってきたときはなんにも言わなかったのよね。
夜、お風呂に入ってるときに、言った。
「しんたいそくていだったの。ぼくは、しなかったの。」
「え?」
「にげたの。」
こわかったのらしい。

まあ想像はつく。
人がいっぱいいるところがこわい。いつもとちがうこと、はじめてのことがこわい。緊張したまま、じっと待っている、ということができない。
しんたいそくていはこわくない。うちの柱で背をはかるのといっしょ。おにいさんになるためには(いまのところ、ちびさんの人生の目標は、おおかみではなく、おにいさんになることだ)、しんたいそくていします。と説明する。
こんどはできますか。
いや、にげるの。
じゃあ、しんたいそくていの日は、パパとママもいっしょに行きましょうか。
いや。ひとりでいくの。
しんたいそくていする?
……。

そのうち慣れるかなあ。どうだろなあ。
だが、「ひとりでいくの」だって。ほんの2週間前まで、「ママといっしょ」と泣いてたひとが!

私も逃げたもんなあ。幼稚園が終わって小学校にあがる前。とっても自閉的なのを親が心配して、知り合いの塾に連れていかれた。といっても、個人の家で、学校の帰りに寄って宿題をする、という感じのとこだったんだけど。連れて行かれた最初の日、教室にあがれなかった。それで、部屋の外の庭さきで、ノートにクレヨンで言われるままに波線かいたりぐるぐるまきをかいたり、していたんだが、先生がちょっとむこうにいったすきに、逃げ出した。三度も。二度つかまって、三度目は、家と反対方向に逃げたけど、遠くにいくと帰れなくなる気がして、近くにうずくまっていたら、やっぱり見つけられた。

ちびさん、バスにかぎらず、いろんな入口がこわいかもしれない。いいかげん慣れたはずのところでも、家以外の場所で、部屋に入るとき、ドアのところで足をすくませたり、そのままへなへなすわりこんだり、ふざけたり、逃げだしたり。

そうだなあ、私もこわかったなあ。高校のころも、教室のドアをあけるのが、死にそうな気分だった。席についてしまうと落ち着くんだが。しらないところいくの、いまもときどきこわいもんなあ。しょうがないよなあ。

まあ、ゆっくり、がんばってみようか。