トロイメライ

子どもの日。
毎年ベランダにこいのぼり飾っていたんだけど、ペラペラのビニールのこいのぼり、お父さん鯉が破れたんだよね。破れたお父さん飾るのも、お父さんなしのこいのぼりも、あわれなので、今年はこいのぼり、なし。
先月、町内の集会所で、教えてもらってつくった粘土の鯉を、部屋に飾っている。本当は青いのと赤いのと一匹ずつだったんだけど、ちびが、「ちびは? ちびのこいもいる」と主張して、粘土余分にもらってつくった。
プロがつくると、ショーケースに飾られたりするようなものになる、らしい。
で、私がつくるとそうならない。町内の、お婆さんたちとか女の子たちとか、みんなでつくってたんだけど、きわだって不細工な顔だった。

布団敷きっぱなしのせいで、線路をひいたり車並べたりして遊べないので、ちびさん、起きてる間じゅう、机に向かってる。
「ママー、とおんきごうがかけないから、かいて」と言う。なんのことかと思ったらト音記号音楽教室の新しいテキスト開いて、自習している。「これが、ド、これがレ、これがミだよ」とか言っている。(あってるし)
かと思うと、英語の単語張めくって、「グッドアフタヌーン」とか「アイムファイン、サンキュー」とか言ってる。「ソルトはしお、じゃがいもはポテトだよ」とか。きゅうりのことをキューカンバーというのだとは、きみに教えてもらうまで、知りませんでしたね、私。
きみの記憶力は、そりゃもう大変なもんなんだけど、38度を超える熱があるのに、「ねないの、もっとべんきょうするのっ」って、教科書抱きしめて泣く4歳児を、どうすればいいんだろう。

とりあえず、食べさせる。「ママー、モアジュース?っていって」というので「モアジュース?」ときいたら、コップを出して「イエス、プリーズ」と答える。それ以上むずかしいこと言ったら、私はわかんないからな、と思う。「モアウォーター?」と言ってみたら、「ノーサンキュー」だと。

もうそろそろ二十歳くらいになるグレースが、(赤ちゃんのときゴミの山に捨てられていたのを拾われて、レティ先生に育てられているんだけど)まだ小さかった頃に、ママ・レティの真似をして、私たちに、ごはんの度に「モアライス?」とか「イート(命令形)」とか、片言の英語を言っていたのを思い出してなつかしい。

子どもを抱いて布団にひきずりこむ。先に眠りにひきずりこまれるのは私だ。夜、すこし熱さがる。

シューマン 子どもの情景から「トロイメライ」をYou Tubeで聴く
 
この曲を聴くと13歳のころを思い出す。そのころにオルゴールで聴いたのだ。それからコクトーの「怖るべき子どもたち」も思い出す。そのころの愛読書だった。「子どもは子どもの現実にかえらなければならない」というようなフレーズが、なんだかとても、大事だった。文庫本、お守りみたいに鞄に入れていた。