美女柳

未央柳(ビョウヤナギ)。美女柳、とも言うらしい。
オトギリソウ科。

庭に花ざかり。

ドナルド・キーンは、第二次大戦中の学生の頃、たまたま読んだ源氏物語に衝撃を受けて、日本文学の研究者になったという。源氏物語の何に驚いたかというと、西欧の英雄譚には戦いがかならずあるのに、源氏物語には争いがない、戦争がないことに心底驚いたらしいのだ。
ざっと読み返してみて、今さら気づいたのは、仏教の存在。仏道を求める(出家する)ということが、世俗の栄耀栄華などよりも価値のあること、尊いとする世界観が貫かれているということだ。生死のことも愛憎のこと、権力のことも、出家することで、なんとかおさまってゆくのである。法華経に女人成仏が説かれていなかったら、源氏物語はきっと書かれていないだろう。(そういえば昔、高校の図書館に古い経典の本があって、書き下し文とか載ってるのを読んだ。竜女の成仏のところ。ダイバダッタ品。)
源氏物語の、女性たちの苦悩の様相が、学生のころに読まされたときよりはわかりやすいのは、年とったかいはあろうというものだが、紫式部がついに願ったのは、成仏、ということであっただろう、と思った。

「人を愛する事、自然に愛する事、その愛の相手から何も求めない事、おそらくどの親、誰の親でもお父さんの気持ちを分かるだろうし、そのうち紀にだって分かる時が必ず来ます。絶対の尊厳とその愛と言ってもいいでしょう。キリスト教も仏教もイスラムも、ユダヤ教も、それを実に丁寧に説いています」(「エレクトラ中上健次の娘への手紙)