荷物の表情

「きょうは、えほんをかりるひなのよ。ぼくは、さくらごうのほんをかりる」
と、朝、バスがくるところまで歩きながら、ちびさんが言った。
「さくらごうは、どこを走ってるの?」
「きゅうしゅうをはしってるの」
さくら号なんて私は初耳だが、ちびさんよく知ってる。県の名前を言えば、どんな新幹線が走ってるとか教えてくれるし、電車の名前を言えば、どこを走ってるか教えてくれる。ちよっとした図鑑が頭の中にあるみたいだ。
(幼稚園からのおたよりによると)図書室に新しい本も入ったらしいし、「新しい本あったら、新しいの借りておいでよ」と言うと、「あたらしいでんしゃのほん、かりてくる」と言った。

(気になったので、いま調べてみると、さくら号は、長崎東京間の寝台特急列車。佐世保まで乗り入れていたらしいが、1999年に佐世保便はなくなり、2005年には、全面廃止になった。)

ちびさん、やっぱり、あたらしい本、借りておいでよ。

バスが来るのを待つ間、いつものようにしりとりする。
今日は「さくらごう」からはじまる。
さくらごう→うし→しまうま→ママ→まり
ここでバスが来るが、まり、では終われないらしく「ママ、つぎは「り」だよう」というので、急いで「りす」というと、ちびさん、りすになって、ママのおでこをとんとんと叩いて(注1)、それからようやくバスに乗ることを了解した。
乗り口の一段目のステップまで、私が運ぶ。そのあと、先生が抱きあげて席まで運んでくれる。
引き剥がすときのべりべりべりっという音は、ほとんどしなくなっているが、自分でバスに乗ろうという気はさらさらないらしく、荷物のように動かずにいる。表情まで荷物のようなのだ。

中城ふみ子の短歌、思いだす。ここんとこ毎朝。

 スクーターの後ろに乗りし子が下ろさるるときに荷物の表情をせり


(注1)
しばらく前にケーブルテレビで「チャーリーとチョコレート工場」というファンタジー映画を観たのだ。英語に字幕スーパーで、どれだけ理解したかわかんないが、ちびさん喜んで見ていた。
そのチョコレート工場では、たくさんのリスさんたちが、くるみの皮むきの仕事をしていた。リスさんたち優秀で、くるみをとんとんと叩くと、中身がわかってしまう。とんとん叩いて中身の悪いくるみは、ゴミの穴にぽいっと捨てる。
わがままな女の子が、リスさんを欲しがって、追い回すのだが、リスさんにおでこをとんとんされてしまう。たちまち中身の悪さがばれて、女の子はたくさんのリスさんたちに運ばれて、ゴミの穴にぽいっと捨てられてしまいました。
それから、ちびさん、リス、と聞くと、おでことんとんしたいのだった。
でもちびさん、リスさんこわい。言うこときかないときに、「リス呼ぶよ」と言うと、「リスよばないのおおおおん」と泣く。ほんとに泣くのがおもしろい。
そんなわけで、リス、と、おでことんとん、は条件反射なのだが、説明するのは、めんどくさいね。