朝、幼稚園バスを待つあたり、たくさんつばめが飛び交っている。近くに巣があるのか。ずいぶん低いところを飛ぶもんだ。
つばめたち、これからどこへ行くのだろう。

 水甕の空ひびきあふ夏つばめものにつかざるこゑごゑやさし 山中智恵子


幼稚園のときに買ってもらった絵本を3冊だけ持っている。
昭和44年、世界文化社発行。少年少女世界の名作絵本。定価480円。全22巻だが、最初の3冊しか買ってもらえなかった。お金がなかったのだ。
高校生のとき、友だちの家に全巻揃っているのを見たときは、すこし悔しかった。
東京にいたころ、児童館の図書室に入りきらないとかで、古い本を処分するそのなかに、このシリーズがあり、もらって帰ったときは、失われた何かをとりもどしたみたいな気持ち、1冊欠けているが、えらくうれしかった。

1巻 ウランダースの犬 母をたずねて
2巻 マッチ売りの少女 雪の女王
3巻 クリスマス・キャロル しあわせな王子

から、21巻 ああ無情 22巻 小鹿物語まで。

小公子、秘密の花園、おずの魔法使い、青い鳥、十五少年漂流記、などなど。

挿絵がすごくいいのだ。朝倉摂杉田豊、岩崎ちひろ、司修などなどそうそうたる顔ぶれ。

つばめ見ていたら、「しあわせな王子」のつばめを思い出した。
オスカー・ワイルド作。「獄中記」や「ドリアングレイの肖像」は高校生のころに読んだけど、同じ人が、こんな美しい物語を書いたのだ。永遠性は、「しあわせな王子」のほうにある、と思う。

「かわいそうに、あなたは もう、目が 見えない。」
「いいんだよ。それより、きみは 早く 南へ おかえり。友だちが まって いる。」
「いいえ、ぼく もう いいんだ。このまま、ずうっと、ここに いて あげる。」

王子様にたのまれ、つばめは、王子様の黄金をはぎとって、苦しんでいるひとたちのところへ運んでいく。冬のある日、すっかりみすぼらしくなった王子様の銅像と死んだつばめは、町の恥だと、ゴミ箱に捨てられた。

何がしあわせかを、人生のはじめに、教えてくれた本。教えてくれたつばめ。