成長

解熱剤が効いて、朝、熱は下がる。
でも幼稚園を休むので電話をしたら、保健室の先生が出て、「りくしくんにはいつもなぐさめてもらっているんですよ」という。ちびさん、毎日、教室を抜け出して保健室に遊びに行っているのだね。

午後、療育センターへ。

「ぼく、じんせいが、つまんないんだ」
ちびさん、5歳になったばかりで、人生上の大問題にぶちあたってしまった。どうすれば、人生をつまんなくなく、楽しく生きられるかというのは、これは大変な難問だよ。
振り返れば、たぶん、5歳の私にとっても人生はつまらなかった。退屈をもてあましていた長い一日一日だったと思う。でもそれを、つまんない、と認識することもなかったし、泣くほどつらいことと思ったりもしなかった。
で、この難問を抱えて、半年ぶりの療育の診察にゆく。
「ずいぶん成長しましたね」と、担当の女医さんがにこにこと言う。「幼稚園がつらいのも、泣くのも、成長の過程ですから。順調に成長していますよ」
以前になかった感情、「照れる」というような感情が出てきたり、みんなと違う自分に気づいたりしている。「ぼく」というものに気づいてきている。大事な時期だし、もちろん乗り越えてゆけるし、ただこの時期に、失敗体験を多く積んでしまうと、あとが大変なので、成功体験を積み重ねるようにしていきたい。
「ふつうは、123……とすすんでいくところを、先に8、9にとんで、それから1、2と埋めていくような発達の仕方だけれど、まわり道しながらも、ほぼ年齢にみあった発達をしていますよ」という説明で、とっても気持ちが軽くなった。
幼稚園の対応はとても適切でしょう。耳の過敏があるから、子どもたちがたくさんいてざわざわするところで、大人しくすわっておけというのが無理。我慢するとすれば、大きなタイマーを用意するとかして、短い時間からはじめて、何分すわれた、えらかったね、という成功体験に結びつけてゆく。また、ほかの子どもたちにも、教室での声の大きさはこれくらい、というふうに、声の大きさの指導をしていく。教室を出ていきたくなったときに、すこし出て行きたいか、もう我慢ができないほどか、という気持ちを、カードを使ったり工夫して、先生に伝えるということができれば、そのやりとりによって、気持ちが落ち着いて、すこし大丈夫になる、ということもある。
幼稚園で、ひとりで過ごす時間がもてる、ということは必要。違和感なくその時間を確保できるように。ザリガニのえさやりはいいですね。
視覚支援は、絵をつかっても、文字だけでもいいけれども、本人がよく見るところにあって、いつでも見れるようにしておく。
体の不安定さ、感覚統合については、アスレチックが適当。ときどきアスレチックで遊ぶといいでしょう。
こういう子どもにとって、日本の義務教育というのはほんとうに大変だけれど、最近は、公立小学校の普通級でも、療育のスキルを取り入れるということもしているので、それはまた就学前に学校と相談する。

だいたい以上のようなことだった。
「じんせいが、つまんないんだ」と泣くのも、いいことみたいだよ。きみのそれは、成長痛らしい。 

高杉晋作の辞世の歌「おもしろき こともなき世を おもしろく」を思い出す。「すみなすものは心なりけり」という下の句は、野村望東尼がつけたと言われている、とか。

夜、また熱が出る。市民病院で出してもらった薬が、いつものと違っているので、泣いていやがる。座薬の解熱剤を、暴れていやがる。が、強制執行。だいぶん熱下がってようやくしずかに寝ている。


にんじんの葉っぱ、ずいぶん伸びた。