リス

ごく小さな子どもにとって、情報、というものは、親からやってくるものだった、と思う。私が子どものころはそうだった。母のもっている情報が情報であり、それがやや時代遅れっぽいとか、そういうことに気づきはじめるのは小学校の高学年になってからだった。

だが。ちびさんにとって情報は、いろんなところから来るのだ。テレビとか本とかダイレクトメールとか。いやもうほんとに。
それで突然彼は言うのだ。「ママ、きょうはケーキつくって。ざいりょうは、こむぎこと、さとうと……」
レシピまで記憶してくる。
「ママはつくれません。」「えー、どうして」「つくれないものはつくれません」
だってオーブンって、あるにはあるけど、なんかこわくて。
使えるまでには、もうすこし時間がかかると思うよ。

(むかし、洗濯機をこわがって、井戸のある家に住んでいたときは、ずっと井戸で洗濯していた母の気持ちが、よーくわかる)

折り紙の本もすらすらおぼえる。「つくりかたは、さんかくにおって、またはんぶんにおって……」と記憶しているが、自分では、三角に折るのも大変で、結局ママに「つくって」ともってくる。

テレビの番組表もすらすら記憶して、ディズニーチャンネルとかアニメ専門チャンネルとかお天気専門チャンネルとか、あるわけだから、放っておくとずっと見ている。それでリモコン隠すのだが、隠しても隠しても見つける。見つからないと、「ママ、どこ」とまとわりついてうるさい。泣くし。それで、「リスが来てもっていった」と言ってやった。

すると、あきらめたのである。なんと。

リスというのは、「チャーリーとチョコレート工場」という映画に出てくるリス。工場でクルミの皮むきをしているリスさんたち。クルミをとんとん叩くと、中身がわかる。わがままな女の子は、リスに頭をとんとんされて、ゴミ箱に捨てられるのだ。
それで、ちびさんが言うこときかないときに、リス呼ぶよ、と言うと、えらく効き目がある。「よばないでー」といちいち泣くのが面倒だが。

パパの携帯はauでリスのマークなので、パパが電話したら、いつでもリスは来ることになっている。

それで、テレビのない週末、テレビが子守りしてくれないので、私がするのだ。あーあーあーくたびれた。
それで今朝は幼稚園に行くのに泣く。「ママといっしょがいいの」しくしくしく。

やっと行ったよ。