シモーヌ・ヴェイユ「根をもつこと」

シモーヌ・ヴェイユをぱらぱらと読み返している。

「根こぎは、人間社会のずばぬけてもっとも危険な病患である。なぜなら、根こぎは増殖してゆくからである。完全に根こぎにされた人間には、ほとんどつぎのどちらかの態度しか許されない。すなわち、古代ローマ時代の奴隷たちの大部分とおなじように、死にほとんど等しい魂の無気力状態に陥るか、さもなければ、まだ根こぎされていない者たち、ないしは、部分的にしか根こぎされていない者たちを、しばしばこのうえなく暴力的な手段によって、根こぎにすることをめざす活動に飛び込むか、である。」
シモーヌ・ヴェーユ著作集Ⅴ「根をもつこと」 春秋社)

この文章の傍らに、鉛筆で「現在のイスラエル」と書き込みがしてある。20年前、はじめてこの本を読んだときに書きこんだのだと思う。
20年たって、事態はいっそう悪い。



そういえばヴェイユを短歌に詠んだひとがいたと思って、気になって探す。でもとりあえず見つけたのはこれだけ。

 アルデシュの土にまみれしシモーヌの棄私を貫き耕(す)く愛もある
                    三枝浩樹

もっとあった気がするんだけど、見落としているかもしれない。
ご存じの方、教えてください。シモーヌ・ヴェイユを詠んだ歌。
今朝、街に降りたついでに、30分ほど県立図書館によって、ぱらぱら「短歌」2月号めくったら、こんなのがあった。

 なにか知ら不穏。深部で騒ぐ水。ヴェイユを読めば殊さらに さう
                    岡井隆

宮中の話と並んでこの歌が出てくるのが、なんだか不穏。(というほどもなく、なんだかわからん。)

ある人が言った「現実の悲惨を超える詩のリアリティ」という言葉が胸にのこっている。ヴェイユの言葉はそのようだ。
まさにそのような、彼女の思想の内側をひらく詩を、読みたい。




同じく図書館で「現代思想」2月号の巻頭、岡真理「ガザのあとで」を読む。

ホロコーストのあとで、私たちにはもはや「知らなかったのだから」という言い訳など残されてはいないのだ。」

もの書く人が言わなければならないことを、きちんと言っている誠実に救われる思いがする。