短い言葉、長い物語

雨。向かいの森の桜もすっかり散った。

2月から、詩人の河津さんと、懲りずにまたコラボしていたのが、昨日、最後の短歌を書いて、一応終わった。で、放心状態。
数えたら220首を超えている。短歌、だと思うけど、ちがうかもしれないから、220行、と言おうか。おもしろかった。「ないものは見せられないし、あるものは隠せない」という状態に追い込まれてゆくのが、すこし人生と似ている。

コラボって、一方では作者だけど、もう一方では読者だから、長い物語を読み終えた気分。

ふいに思い出した。

15歳くらいのころ、早朝、部屋の窓から庭を見ていて、草の葉の露が落ちてゆくのがきれいで、いつか、そんなふうな、きれいな短い言葉を書ける人になれるといいと思った。(短歌を書くとは夢にも思わなかったけど)。と同時に、長い長い物語を書きたいと思った。その頃「静かなドン」とか「チボー家の人々」とか、長い小説を読むのが快感だったのだ。思ったが、どうしたら書けるのか、見当もつかないようなことだと思った。

見当もつかないことだったのに、短い言葉と長い物語、そのどちらもが、なんとなく叶っているようで、15歳のあの朝の自分に知らせてやりたい。真夜中にひとりで泣いていた子どもに(よく泣いてた。理由もわからず、なんというか呼吸するみたいに泣いてた)生きてみれば、たくさんの素晴らしい友だちができるのだということも、教えてやりたい。