帰り仕度

どうして鬼ヶ城を見れないんだ、と憤ったら、まさかそのせいとは思わないけど、郷里の知人が急死、5日にくも膜下で倒れて昨日の朝亡くなった。

帰省してくる。

信じられない。子どものころから知っている。しばらくうちに居候していたこともある。兄のような人だった。
この人がいなかったら、私の人生のかたちはちがっていた。この人がいなかったら、きっともうすこし無残だった。

私の兄の親友だった。兄がどんなときも、私たちの家がどんなときも、態度を変えない数少ない一人だった。私の父は自分の子どもよりも信頼していて、近所なので、ああ、何から何まで世話になっていた。

昨日の午後は帰り支度。
ずっと、帰ろうとしても帰れなかったのに、うそみたいにすらすら、帰省の支度ができていくのが、腹立たしいようだった。

昔、宇和島にいたころ隣人だった人で、いま広島にいる80歳のおばさんは電話の向こうで泣き崩れていた。この人にとっても息子のようだったのだ。
おばさん、自分の体調(癌です)も不安で、帰ると言ったり、やっぱりやめると言ったりしながら、たぶんこれが宇和島に帰れる最後と思うのかもしれなくて、やっぱり連れて帰ってというので、いまから一緒に帰る予定。

最後に会ったのは4年前かな。最後に電話で話したのは、去年の年末。「あたたかくなったら、帰るよ」と言ったら、「そうしてやれ、親父もよろこぶよ」と言ったのだった。

母が死んだとき、つきそってくれたのがこの人だった。松山の港まで迎えにきてくれた。不安なときに傍らにいてくれた。信頼した数少ない大人のひとりだった。
祖母が死んで帰省したときに迎えに来てくれたのもこの人だった。帰省したときに一番会いたい人だった。

葬儀に帰ったら迎えに来てくれるはず。
そのひとが死んでいる。

信じられない。

夜、うえーーーーん、と子どもみたいに泣いてしまったら、ちびが、「ママ、なかないで。だいじょうぶ、だいじょうぶ」となぐさめに来てくれたが、つられてすでに自分が大泣きなのだ。このひとは、私の涙に嘘みたいに動揺する。きみが泣くから泣けないんだよ。ほんとはもっともっともっともっと泣きたいんだ。

鬼が城見てくる。

そろそろみんなを起こそう。