へらへら

ちびさん、電車の線路を敷いて遊べる程度には、回復。
でもまあ今日の遠足は休ませる。
耳に手をやるのが気になったのと咳をしているので、午後、耳鼻科に行く。先週も耳鼻科で咳止めの薬もらっていたのに、嘔吐騒ぎで、呑ませてない。
耳は大丈夫そうだが、念のため、中耳炎予防の薬だしてもらう。以前も、大丈夫でしょうと言われた2日後に、緊急手術、みたいなことだったから。
乳児医療の支払の払い戻し分の申請に福祉センターに行って、帰りにスーパーに寄ったら、ばったり、同じクラスのそお君母子に会う。

すると、ちびさん、いきなり逃げ出した……!
幼稚園でいちばんよく遊ぶおともだちから逃げ出して、きみはどうやってこれから世の中生きていけるつもりなんだ。
しょうがないので、私がそお君母子とお話しする。遠足から帰ってきたところらしい。
「バスはたくさんのれたんだよ」とそお君。
席はあいていたんだね。行ければよかったんだけれどもね。
ちびさん入口のドアの外まで逃げて、振り返って、へらへら笑っている。
恥ずかしいんだね、と思ってもらえるのも今のうちだからな。

逃げ出す気持ちはよくわかる。よーくわかる。
好き嫌いとか、そういうことではないのだ。幼稚園のともだちと、幼稚園以外のところで会うのは、なんだか困るのである。
うまく説明できないが、困るのだ。

私は、高校生になっても困っていた。
困ってしまって、本屋で教師を見かけても、気づかなかったと言えるようにうつむいていたりしたし、担任に声かけられても返事もできなかった。とても親しい友だちで、一緒に本屋に行ったことがあったりするなら、ばったり本屋で会っても平気だったが、それがスーパーだったら、また困った。
いつだったか、夕方スーパーで音楽の先生をみかけたときは、どうやって逃げようか隠れようか考えているうちに見つかって、私が母と一緒だったからかもしれないが、先生のほうが頭をさげて挨拶したので、ますます後ろめたく(おかげでいまだに覚えている)、どうしてそんな、なんでもないことで、そんなに困らなければならなかったのか、不思議なほどだが、ほんとうに困ってしまうことなのだった。

まあ、珍しいところで会うね、久しぶり、などと言って、思いがけない出会いを楽しめるには、楽しめないまでも、それなりに言葉をかわしてやりすごせるようになるには、ずーいぶん時間がかかったような気がする。
ずーいぶんずーいぶんずーいぶん、かかったぞ。

10メートル走って逃げて、振り返ってへらへら笑うぐらいは、まあ、かわいいのだ。

へらへら。