Paaralang Pantao 10

☆パアララン・パンタオの子どもたち
 
教室では、Aはアップルのア、というような勉強をしているが、席を離れてふらふらこちらに遊びにくる、ジュリウス(5歳)。4人きょうだいの末っ子。(上に14歳女、10歳男、8歳男)10歳兄は勉強ができるが、下の2人はそうではないらしい。お母さんは病気で死んで、お父さんと暮らしている。お父さんは仕事に出る前に食べ物を置いていくが、姉や兄たちに食べられて、ジュリウスにはなかなかまわってこないので、彼は給食を楽しみに学校に通ってくる。
ある日、ジュリウスの兄がたくさんお金をもって(朝、トラックにのぼってゴミを拾ったのだろう)やってきたとき、レティ先生は、弟にも分けてやるように言ったらしい。
ジュリウスは、ちょっと机については、またすぐにさぼる。レティ先生に「何かしないと、ごはんはないよ」とたしなめられて、「なにか、するよう」と返事していた。
 
☆午後のクラス
 
パヤタス校の午後のクラスは、6歳以上の生徒たち。小学校に入る前、はじめて勉強する子もいる、2年目の子もいる。いろんな事情を抱えた子がいる。
マリアペレ先生のクラスのアントニーは6歳か7歳。白い肌にブロンドの髪で、ヨーロッパ人のように見えるが、フィリピン人で、きょうだいは黒髪だ。彼だけが色素が薄い。(もしかしたら遠い祖先の形質が突然変異的にあらわれてきたのかもしれない)
体はわりと大きいが、非常に弱い。目もよく見えないみたいだ。パアラランで勉強して、小学校に行ったが、IQが幼稚園程度、ということで、もう一度ここで勉強することになった。
授業が終わると、お姉さんかな、迎えに来て、小さなお姉さんの服にしがみつきながら歩いていくのが、印象的だった。

メリージェーン先生の午後のクラスの生徒は7歳から15歳。なかなかユニークな子が多い。日本なら、複式学級か、特別支援学級、といった雰囲気だ。
 
メリージェーン先生のクラスには、彼女の息子のヤッキー(8歳)もいる。すごくおとなしくて穏やかな少年。ヤッキーは言葉の遅れがある。言葉が少ないし、はっきり喋れない。それで、特別支援学校のようなところに通ったのだが、その学校は、わりと知的障害の重い生徒が多かったらしく、ヤッキーは友だちもできず孤独だった。
たぶん、軽度の発達障害だろう。そんなわけで、パアラランにもどって、勉強をつづけることになった。
夢見がちなまなざしをした少年で、彼を見ていると、私はとても気持ちがなごんだ。
 
一番年上の15歳のジェラルドは、小学校2年生で学校をやめた。お父さんが死んだので働かなければならなかったのだ。最近、田舎から出てきて、パヤタスのいとこの家で暮らしている。ジャンクショップ(ゴミを買い取り仕分けする店)で働きながら、勉強を再開した。
記憶が苦手。ものを覚えるのが大変で、3日休むと自分の名前も書けなくなっている、とレティ先生は嘆く。ある日、ジェラルドは、小さい子たちが騒がしくしている傍らで、ひとりしずかに3桁の引き算のプリントをしていた。プリントの横には紙を置いて、その紙に短く細かい線をたくさん引いている。何をしているのかと見ていたら、たとえば15-7という計算が暗算では難しいらしく、15本の短い線を引いて、そのうちの7本に斜線を入れて、残りを数える、という方法で、計算しているのだった。それを繰り返して、3桁の引き算も答えを導きだしている。なんか、すごいぞ。
傍らのざら紙には、数を数えるための1センチほどの短い線が、びっしりと並んでいる。なんかなんか、すごいぞ。
 
放課後、子どもたちがみんな帰ったあと、ふたりの先生たちは教室の掃除をする。ヤッキーと、マリアペレの一番上の子、3歳のロレンスが、ママたちの仕事が終わるのを待ちながら、テラスで遊んでいる。