Paaralang Pantao 9

☆パアララン・パンタオの幼児教育(基礎教育)

☆まず、このような貧困地域で子どもが学校に行けない、あるいはドロップアウトしやすい理由。

●親が教育に関心がない。自分も教育を受けていないので、教育が必要と思わない。
たとえば、マリアペレが欠席した子の家を家庭訪問して、親に、なぜ学校に来ないか聞いたら「行きたくないんだろ」と答えただけで、親はギャンブルをつづけていた。
たとえ子どもが学校に行きたいと思っても、日常的に親が、学校行くより仕事しろ、という価値観をおしつけてくると、行きづらくなる。
小学校に行くのに必要な文具などの出費はそんなに高くない。ここの人たちにとってもそんなに無理のある金額じゃない。だが、親に理解がないと買ってもらえない。
パアラランでは、生徒に、鉛筆やノートやカバンを支給したが、もらうものだけもらって、来なくなる生徒もいる。今度、本をあげたいと思っているが、それは全員ではなくて、がんばっている子を見極めて、あげようと思う。

●かつて、ここの子どもたちが学校に行けない最大の理由のひとつだった出生証明の問題は、いまは解決している。以前は、出生証明の申請に1500ペソ必要で、そのお金の工面ができないということが多かったが、いまは無料になった。出生証明の手続きは、コーディネーターのメイがしてくれる。いまも何人か手続きしている途中。

●一般的な問題としては、言語の問題。地域部族の言語は140ほどもあるらしく、タガログ語母語じゃない子も多い。デイケアで、アルファベットを認識する能力がないと、小学校でついていけなくなる。
(フィリピンの2002年の統計で、小学校2年でのドロップアウト率は15パーセントにのぼるらしい。小学校3年から、数学、理科、社会などの科目が英語で行われるようになるかららしい。母語での教育、はこの国のこれからの課題。一方、学校教育はすべて英語にしよう、という意見もあるらしい。先生も教え方がわからないし、地方はもっと大変だろう)


☆学校に行けない子のサポートについて

ドロップアウトした子のためのサポートはないわけじゃない。物質的なサポート、交通費の支給などのサポートをしているところもある。だが、なぜ学校に行くのか、というモラルサポートはない。
あるクリスチャンの組織では、サポートを受けるためには、毎週のミサに親が出席しなければならない、というようなところもある。親がそれを嫌えばサポートは受けられない。

パアララン・パンタオでは、まず家庭訪問して、学校に来ない理由を把握する。病気などの特別な状況のサポートも、薬を手配するとかして、対応している。
小学校に行ったが、勉強についていけない子、家庭の事情で学校をやめた子は、ここで学びなおすことができる。


☆パアララン・パンタオの幼児教育

パアララン・パンタオでは、主に小学校入学前の教育を行っている。
まず基本的な準備──鉛筆の持ち方、机に向かう、先生に尊敬語を使える、ともだちと仲良くする。
そのうえで、小学校に入って学ぶことがアカデミックになっても対応できる教育を行っている。
基礎教育がしっかりしていれば、小学校に行ってもドロップアウトせずに6年間通える。
パアララン・パンタオから小学校にすすんだ子どもの多くが6年間通うことができている。
公立の小学校でも、パアララン・パンタオの生徒の優秀さは認識されている。親たちから「ありがとう。うちの子どもは、小学校に行ってもいい成績で楽しく勉強を続けています」と感謝されている。

小学校卒業後、進学するかしないかは、親の理解や金銭的な事情で異なる。


☆教育のレベル。

家庭での教育を期待できない環境にいる子どもたちが、小学校に行くまでに身につけなければならない学習内容は、けっこう多い。
机に向かう。先生の話を聞く。鉛筆のもちかた。歯磨き。食事のマナー。というようなことからはじまって、
アルファベット。数字や図形。色やものの名前。タガログ語の単語。英語の単語。家族、地域、国、など社会科の基礎。味覚、自然、などの理科の基礎。(1年間のカリキュラムについては、パアラランのホームページの高橋さんの卒論を参照してください。)
教師の指導は、開校時から、フィリピンの教育NGO「チルドレンズ・ラブ」がしてくれている。ストリートチルドレンの教育に携わって実績のあるNGO。

子どもたちが、鉛筆の持ち方がしっかりしていて、字も丁寧に書いているのに、私はいまさらながら、驚いた。鉛筆をかじる子もいない。
5歳。うちのちびさんと同い年なんだが、彼はまったくなってない。紙や鉛筆を大切にする仕方が全然違う。(鉛筆は2ペソ、紙は6枚で1ペソ。一日のおやつ代くらいだけど、支給されるノート以外は、子どもたちは自分で買うのである。)
うちの子、鉛筆をかじるんだけどどうしよう、って、レティ先生に言ったら、ここでは「かじったら、きみはもう鉛筆がないよ」と教えると言った。「ここに連れておいで」。
本当にそうしたいわ。

学習内容は、無理がないようにすこしずつ進めるが、ここで一年間勉強したら、小学校1年の段階で必要なレベルは身に付けられる。もうすこしサポートが必要と思われた子には、もう一年、ここで勉強することをすすめている。ドロップアウトした子が、ここで学びなおすこともある。

親たちには、子どもが5歳になったら、ここで勉強させるように啓蒙している。5歳なら、1年間で覚えられることも、10歳や15歳になると、3年もかかってしまう。5歳からはじめたい。

(つづく)