「トムとジェリー」

休日、朝からうちの男の子たちがけんかしている。
「おまえみたいな、わがままな赤ん坊は、幼稚園に行かなくていい。パパが行く」
「だめえ、だめなのお、ぼくがいくの」と、ちびさん、すでに泣いている。
それで、パパは息子の泣き顔に萌えるんである。かわいくてたまらんのだと。いいかげんにやめればいいのに、「パパがあや先生とお話する。パパがはるなちゃんと遊ぶ」とか、しつこく言っている。
ちびさんも泣くだけですまなくなってきて、怒って立ち向かっていく。が、よく見ると、わざわざまとわりついて、パパを挑発していたりするんである。
なんというか、「トムとジェリー」の人間実写版。

午後、パパとちびさんお出かけした。

帰ってきたちびさん、ただいまも言わず、なんだか怒っている。「ふたりともだいきらいなんだ」と言って、部屋に閉じこもってしまった。

どうしたのかと聞いたら、アイスクリームを食べさせてもらえなくて、怒っているらしい。「キャンペーンが終わっていたから、あきらめさせたんだ」とパパ。
って、あきらめられずに怒っている。でもジュースは飲んだらしい。
「ずるい。ママの分は」と言うと、出てきて、
「あ、ママ、ごめんなさい。ぼく、ぜんぶ、のんじゃった」とまじめな顔で言うのがおかしい。

それからまた、部屋にこもる。たてこもっているのか、ひきこもっているのか。セロテープをびりびりひっぱる音がして、なんと、戸を壁にセロテープで貼りつけて開かなくする魂胆らしい。「もう、ママをここにいれてやらないんだ」ってさ。

「いいよ、ずっとその部屋にいなよ。そこでひとりで寝るといいよ。ママは二階でパパと寝るから」と言うと、
「あ、おねがい、それはやめて」と情けない声がして、
せっかく貼ったテープをまたびりびりと剥がして、今度は、私を部屋のなかに連れ込んで、閉じ込める。
「ママをここから出してやらないんだ」。

「ママ、ぼくとこんな町に住んでみたいと思わないかい」と誘ってくれるすてきな町をつくるのはいいが、
「ぼく、ひとりで片づけられないんだよう」と毎晩、泣くな。

「ママが手伝ってもいいけど、ママが片付けたら、ビニール袋に入れてゴミ箱行きだよ。ママはきみがこんなにたくさん玩具をもっていることに反対だもん」
「だめー、すてないのー」と泣き叫ぶ元気があるなら、片付ければいいのに、「ああ、ぼくは町をつくることはできるけど、片づける力は、のこってないんだよう」って、気持ちはよーくわかるけど。

それでまたパパが、「だからさあ、もうこいつを捨てようよ」といらないことを言いだすから、「すてないのおおおおん」とまた泣く。

いちいち大騒ぎで、やっと片付いて、寝る準備ができたころには、もう子どもの寝る時間ではなくなっているが、パパがまた思いついたみたいに、タンタンタンタタタン、とか、フラメンコのリズムみたいなのを口ずさむのだ。
すると、ちびさん、いきなり元気な笑顔になって、「トムとジェリー」で、ジェリーがそのリズムでステップ踏むシーンがあるんだが、たちまち踊りだす。腕をうしろに組んで、ふんふんふんと鼻歌まじりで踊る。

ねじをまかれた人形みたい。冗談みたいに面白い。

幼稚園でも音楽教室でも、歌うのもお遊戯もいっさいしないが、ねずみの真似ならできるんだな。

しかし、思うに「トムとジェリー」が面白いのは、15分とか30分の、短い時間だからいいのであって、あの騒がしさを、人間実写版で一日やられると、なんかもう、ふらふらです。