瀬戸大橋を渡る

雨の瀬戸大橋は美しかった。
銀世界に、銀色の橋の幾何学模様が、ほんとうにきれいで、うっとりした。

島のサービスエリアに降りると、空中にかかった橋を、電車が走っていくのが見えて、車体が一瞬よぎるのをみただけで、電車の名前が言えてしまうちびさん、すごい。

「生きてる間にわたしを連れてって」と昔、隣に住んでいたFおばさん(80歳)が言うので、土曜の朝迎えに行くと、体調はすごくいいらしく、車椅子もいらない、という。車のなかには、どこかでもらってきた杖も常備してあるし、杖があれば大丈夫らしいので、おばさんだけ乗せてゆく。
おばさん、全然病気に見えないのがすごいが、癌は転移しているし、要介護3、医者からは絶対安静を言われているのである。

高速を降りて、すこし道に迷ったが、山のなかの墓地公園に無事にたどりつく。新しい墓地は、広々として明るくていい。近くには、5月に死んだくーやんの墓もある。墓園ができたとき、一緒に墓を買ったのだ。
8年ぶりの墓参り。お母さんごめん。

「やっと来れたわ。生きてるうちに来れてよかった。あんたのおかあさんとくーちゃんのお墓参りだけはしとかなきゃ。ふたりにはどれだけ世話になったか。私が一番年上で、ずっと病気ばかりしていて、一番最初に死ぬと思っていたのに、一番最後になってしまった。」

友情というべきなのだろう。私の母とおばさんとくーやんの3人はほんとうに仲がよかった。
母が生きている間、おばさんもくーやんも、私の家に入り浸りだったから、ふたりの存在は、私の子ども時代の光景そのものでもある。
雨の墓の前でふと、そのころにひきもどされる感じがした。母がいまの私ぐらいの年で、兄もくーやんもまだとても若くて。都会からもどってきたばかりで。

墓参りは雨の日がよい。墓石は雨が洗ってくれるし、トイレがまにあわないちびさんが、側溝でおしっこしても雨が流してくれる。

猿があらわれた。顔の赤い猿が、走っていった。見ると5匹も6匹も、子どもを連れたのまでいる。昔、お城山の公園で猿を飼っていたが、墓地公園に猿山があるなんて聞いたことがない。どうやら、野生の猿が遊びにくるのらしかった。

夕方、雨があがって、駅近くのホテルの窓から夕日が見える。
夜、高松駅に電車を見に行く。駅に電車が入る。何がおもしろいのかと思うが、ちびさんそれを飽きず眺めている。まあね、四国の電車は、広島では見れんもんね。