海の水の譚詩

  海の水の譚詩(バラーダ)
      ガルシア・ロルカ

海は
遠くでほほえんでいる。
泡の歯に
空の唇。
 
──何を売っているんだね、おお 濁った娘よ
両の乳房を風にさらして?

──わたしが売っているのは、あなた(セニョール)
海の水です。

──何を運んでいるんだね、おお 暗い若者よ
お前の血に混ぜて?

──わたしが運んでいるのは、あなた(セニョール)
海の水です。

──この塩からい涙は
どこからやってくるんだね、おかみさん

──わたしが流している涙は、あなた(セニョール)
海の水ですよ。

──心よ、そして この重い苦さは
どこから生まれてくるのだろう?

──海の水が ひどく
苦い思いへとさそうのですよ!

 海は
遠くでほほえんでいる。
泡の歯に
空の唇。





本を読んでいてふと思い出したロルカという詩人。15歳のとき図書館で借りた詩集の、この詩を書きうつしたことを、妙にはっきり覚えている。どんな詩人であったかとか、スペインの市民戦争で射殺されたのだとか、そんなことは全然記憶もしなかったのに、この詩だけ。

そんなわけで、ロルカの名前は海を思い出す。
瀬戸内海とは違うだろう。内海に泡の歯はないもんね。
高知の海と似ているかしら、似ていないかしら。

海が見たい。
ぼんやり。
一日じゅう、ぼんやり。