2011年8月 パアララン・パンタオ 7

☆ 銀行

火曜の朝、「私はもうお金がないので銀行へ行こう」とレティ先生が言った。ラリーさんの運転で出かける。
最初の銀行は、スイスのグループからの振り込み、これはエラプ校の給食費にあてる。
次に行ったのがフィリピンナショナルバンクで、日本からの寄付はここに振り込みます。
銀行の前に汚れた布の塊があるなと思ったら、人間で、痩せたおじいさんが路上で寝ていた。
銀行の前には銃をもったガードマン。
番号札をもって長いこと待たされる。通帳を開いて、いまいくらあるか、いくら引き出すか、教えてくれる。
率直に言って、お金はない。帰国したら、あるだけ送ります。そのあとはしばらく待って。
長いこと待たされながら、ああ、金がないなあ、と思う。私、英語もタガログ語もほとんどできないが、金がない、というのだけはしっかり言えるなあ、と思う。
順番が来てからが、また長い。レティ先生、あれこれの身分証明書を提出し、あれこれの書類を書く。
なんでも払い出しのルールがかわったそうで、でも次からはもうすこし早いだろう、という。
ようやく引き出したドル紙幣を、けれどそこではペソに換えない。デパートの両替屋のほうがレートがいいのだ。

ルールの変更は日本でも。今年になって、マネーロンダリング対策らしいのだが、銀行のなかのテレビ電話で送金手続きするのに、そのお金をどこに送るのか何に使うのか、どうやって集めたのか、資料の提出をいちいち求められるようになったのだ。
帰国して、ほんの一昨日、あるだけ送金してきたんだけど、ニュースレター、年間の会計報告書、銀行の通帳、郵便振替の払出書の控え等、持っていって、機械で読み取ったものに目を通してもらう。面倒だが、もういっそ、会計監査してください、という気分。

フィリピンナショナルバンクを出るときは、おじいさんの姿はもうなかった。
それからデパートに行って両替する。空港の両替はあまりにレートが悪いので、私もここで両替して、すこし取り返す。
ジョリビー(フィリピンで人気のファストフード店)でハンバーガーとスパゲティ食べる。それから、ちょうど出口のあたりで絵本をディスカウントで売っていたから、2冊だけ買う。私でも読めそうな英語の、英語がわかんなくても絵をみりゃわかる、というきわめて簡単なやつ。人間の家には何がある? おいでよ、見てみよう、ってねずみさんが鳥さんをさそって、探検する。楽しく探検するんだが、最後には、その家を追い出されてしまう。なぜって人間の家には人間もいるからね。

☆ 午後

ジェーン先生が、体調がよくないって、その日は休みなので、教室の真ん中のしきりの棚を隅に寄せて、マイリン先生がひとりで生徒を見ている。午前と午後、それぞれ50人前後。たいへんそうだけど、しっかりやっている。さすがだ。
ひとりの女の子が、すやすや寝ている。起こさずにおこうっと。
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クラスが終わるころには、マイリン先生は、さすがにくたくたの様子だった。女の子たち、お掃除のお手伝い。
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夕方、ぼんやり、通りで遊ぶ子らを眺めてる。ここは1日が長くて、とりわけ午後はけだるい。
子どもたち、いつも通りで遊んでいて、私はそれを10年前も15年前も見ているんだけど、あのころの子どもたちと同じ子どもたちがそこにいるようなんだけど、もちろん、いまここにいるのは違う子どもたちだ。
すごくすごく不思議な気がする。午後はこんなに長くてけだるいのに、子どもは、なんだかあっというまに大きくなる。
ああ。ゴム草履をパタパタ鳴らしながら、走りすぎる。

心が途方にくれたら、子どものほうへ、もどっていくのがいい。
子どもたち、一緒に手をつないでくれたりして、そのたよりない手が、どうしてそんなに深いやさしさなのか、心強さなのか、いつも不思議だ。パアラランの支援をつづけてきた10数年、私はずっと、ここの子どもたちに甘えさせてもらってきたんです。