じょきじょきふわふわ

いつものように、はさみでじょきじょき髪を切った。
なんか、見るにたえないらしく、店でカットしてもらってこいと、パパが言うが、店がいやだから、自分で切るのである。一週間もすれば見慣れるから、もうすこしのしんぼうだよ。

子どもの髪も切らないと、おじいちゃんが会う度に言うしなあ。
でもこいつ、すぐに泣くからめんどくさい。
5分しかがまんできないので、5分で切ってやらないといけない。

あ、5分しかがまんできないのは私も一緒か。
自分で切れば、5分ですむ。
それ以上時間がかかる、というのが、いや。



2週間に一度ずつ、旗当番がやってくる。通学班のつきそい。バス停まで並んで歩くのを送ってゆくのだ。こないだは、3年生の男の子と1年生の女の子の兄妹が、ものすごく不機嫌そうにやってきて、兄妹げんかの雰囲気だったが、妹が、兄に背を向けながら、「カス」って吐き捨てるように言ったのが、すごかったな。
妹に「カス」って言われたお兄ちゃんは、なんだか荒れて、年上の4年生の女の子に悪態ついて、やりかえされて、うつむいて石蹴っていた。

「ふゆになったら、いきが白いんだ」と1年生のTくんが言う。
「おれ、今朝ココアのんだのに、息が茶色くねえ」と6年生の班長が言う。
「おおゆきっていうのは、おおきいゆきがふるんだ。ちきゅうよりおおきいゆきがふってくるんだ」
って、Tくんが言う。
ふむ。地球にぶつかったら、大きいゆきだるまができるな。

りくはマイペースにふわふわ歩く。
黙っていたり、しゃべっていたりする。頭のなかで動いているのは、トムとジェリーか、ゾロリ先生で、彼らは勝手にしゃべり出す。
ふわふわ歩く。
たぶん、地上10センチくらいを、ふわふわ。
この子ども大丈夫だろうか、と思うが、なんか、たのしそうでしあわせそうなので、まあいいや、と思う。
ふわふわ。



電車に乗ったら、隣に6歳くらいかな、男の子がすわって、私のカバンにつけていた、マクドナルドのおまけのアップルパイのストラップをさわって見ている。本読んでいたし、子どもにからまれるとめんどくさいから見ないようにしてたんだけど、おもわず「あげるよ」と言ってしまう。男の子、「いいです、いいです」と一緒にいたお父さんの口真似していうが、いらない、なんてことはない。「じゃあ、これあげる」と手のなかに握りしめていたハイチュウをくれる。握りしめられて、あったかくなっているグレープ味、もらって食べた。



朗読会の打ち合わせにゆく。
まだ若い先生と私と、ふたりして、朗読会って、見たことも聞いたこともないんですけど、どうするんでしょうねえ、さあ、どうするんでしょう、と言いながら、さくさくさくっと話を決めていく。すごく不安なんですけど、大丈夫ですかね。まあ、楽しくやれればいいと思います。

会場の朝鮮学校4階からの眺めは、すばらしい。とおく海まで見える。
ああ、この眺めだけでも見るかいはあるよ。

あこがれ、という言葉を思い出した。かたちのないあこがれが、胸にあったころの、教室の窓から外をながめていた頃の。

あこがれ。