鳴く鹿の

ヒイイイーッヒイイーッ
っていう泣き声がする。どこの子どもがそんな身も世もない泣き方するんだろうと最初驚いたが、鹿が鳴いているのだ。きまって夕方頃。
たちまち、

 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声きくときぞ秋は悲しき

という歌を思い出したりして、ということは、ここは奥山なのだろうかと、ふと考える。
ヒイイイーッヒイイーッ
って鳴く。

回覧板がまわってくる。熊出没注意。母熊と2匹の小熊が向こうの山からこちらの山へ谷底の道を渡って行った。夏に出たのと同じ母子かしら。

夕方畑に行くと、荒らされている。
これは、熊の足跡ではない。たぬきの足跡でもない。
ヒイイイーッヒイイーッ
と折から鳴いている鹿の足跡だ。
植えたばかりのにんにくが掘り返されている。埋めなおす。
レタスがまた全滅っぽい。夏から何度植えても全滅するのだ。
ま、だいたい世話しないで放っているんだから、何か採れたら、それだけでありがたい。
ねぎとミニトマトとなすとピーマンと水菜とゴーヤが採れる。カボチャも採れる。上出来。

夜、子どもが片づけない。もう、玩具が増えすぎて散らかしすぎて、片づけられないんだな。片づけようという頃には遊びつかれてるんだな。気持ちはわかるけど、私もあんたの玩具を片づけるのはいや。
片づけないなら、子どもがえ。畑に鹿さん来て待ってる。

ヒイイイーッヒイイーッ
と子どもが泣く。それはいや。それはだめなんだ。

泣く元気があるなら片づけられる。ほら、片づけよう。