絶大な愛情のひびき

骨のうたう    竹内浩三

戦死やあわれ
兵隊の死ぬるやあわれ
遠い他国でひょんとしぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと きゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

苔いじらしや あわれや 兵隊の死ぬるや
こらえきれないさびしさや
泣かず 咆えず ひたすら 銃をもつ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰ってはきましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨はききたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた 
骨は チンチン音を立てて粉になった

ああ 戦死やあわれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった


(1942年作か?)


あんずさんのブログで、この詩を読んで、朝からいきなり目がさめた。

「絶大な愛情のひびきを 聞きたかった」

それは私も。

兵隊の骨も。骨になった兵隊に殺された人たちの骨も。骨になった兵隊に犯された女たちの骨も。

テロリストの骨もテロリストに殺された人たちの骨も、テロリストを殺す人たちの骨も。

一個の骨に還元されれば、おなじ祈りだ。



写真展が開催中だそうです。

沖縄戦没者の遺骨は語る:
「骨からの戦世(イクサユ)――65年目の沖縄戦 比嘉豊光展」 より

会期:10月29日(金)~11月5日(金)
会場:明治大学アカデミーコモン1階