とくべつ、おもしろいこともない毎日

後ろの3列目の席の子が毎日ぼくを怒る。プリントをまわすときに、それをぐしゃっとしたのは1列目の子で、ぼくではないのに、ぼくを怒るんだ。毎日怒る。ぼくは毎日つらくてならない。
ぼくじゃないって、言おうと思っても、怒ってるから言えないんだ。

というようなことを、言い出したときは、けっこういっぱいいっぱいなのである。
連絡帳に書きますか、といったら、書いて、というので、書いていたら、
「あーあ、とくべつ、おもしろいこともない毎日だ」などと涙まじり、怒りまじりに言う。
とくべつ、おもしろいこともない毎日、ねえ。

それは誰が言っていたの、ときいたら、「カメレオンが言っていた」という。出典はあるんである。「ごちゃまぜカメレオン」という絵本。「だって、カメレオンは毎日、はえをとってたべてるだけなんだよ」

ふむ。
あれ、背中になにか出てきているみたいだよ。(背中をなでまわしてやる)羽かもしれないよ。いいなあ、もしかしたら鳥になって飛べるかもしれないよ。
「え?」とまだ何のことかわからない子ども。
鳥になるよ。そしたら、きっととっても面白い毎日だよ。
あれ、今度は頭に何か出てきているみたいだよ。(頭をなでまわしてやる)角かもしれないよ。あれ、これは鹿の角だよ。
鹿のかあさんが迎えにくるよ。角が生えたら、本物の鹿になるよ。きっと、特別面白いよ。ほら、行こう、鹿のかあさんのところ。

子ども、泣く。ああ、なんて単純。
鹿にもらわれていくのはこわいんである。

あのさ。特別、面白いこともない毎日だからいいんだよ。カメレオンは蠅をとって食べるし、きみは宿題をする。

生活態度についてのカードを持って帰っている。あいさつとか、教室での態度とか、自己チェックをするのだが、毎月1度もって帰る。すると親も何か書き込まなければならない。
宿題を終わらせるまでに、新幹線が広島を出て東京に着くぐらいの時間がかかるって書きますか、って言ったら、書かないで、って言う。ひとりで片づけられないし、ひとりで明日の準備もできないって書きますか、って言ったら、書かないでって言う。
「それを書かれたら、ぼくはおしまいなんだ」って、泣く。
やれやれ。

2年生になるまでには、ひとりで、宿題も、片づけも、明日の準備も、できるようになりますって言っています。

って書いた。