墓場から

午後、弟から電話。
折り返し電話してくれという、声がただならぬ気配で、一度電話を切って深呼吸する。
金がないか、米がいるのか、事故か、病気か、また仕事がないか。
覚悟して電話する。

「姉さん忙しいところごめんな。」
(いーや、姉ちゃんはこたつで昼寝できるほど暇)

「いま、母さんの墓にきとるんやけど
どうしてか、涙がとまらん。
急に自分がなさけのうなって、涙がとまらん。
墓のなかには若かったり小さくて死んだ子もおるやろ。
おれ、生きとってええんやろうか。」

(弟、泣いている。もしかして、用件は、それか。)

「そりゃあ、生きとってええんやろ。
ねーちゃんは、おまえより長く生きとる。」

「そりゃ、あたりまえじゃ」

「今日は仕事は休みなん?」
(これが気がかり。おそるおそる。)

「腰が痛くて休んどる。十代のときに腰いためてから、持病や、ときどき痛くて働けん。
それで、墓参りに来たんやけど、来たら、もうどうしてか涙がとまらんのんじゃ。」

「ああ、そりゃあ、泣けばええが。そういうときは泣くのよ。
目の前にかあさんの墓あるんやろ。かあさんによろしくゆうとって。
ねーちゃんはなんとかやりよるけん。」

「わかった、ゆうとく。
ほんと忙しいところごめんな。」

(だからっ。こたつで昼寝できるほど暇だってばよ)