パライソKY、あるいはJY

参観日に行ったら、教室が、ほかのクラスと同じように静かだ。ずいぶん落ち着いてきたんだなあ。
子ども、窓際の一番後ろ。その隣がMちゃん、その隣がSくん。
休み時間、子ども、にこにことうれしそうに「ママ、今日はいっしょに帰ろうね」などと話しかけてくる。
子どもの後ろにぴったりとくっついてくるのはSくんで、子どもが私の耳元に「相手してもいいかなあ」とささやく。ということはゆるしてもいい気持ちになったか。ということは、謝ってもらったか。
そりゃ自分で考えなさい、とささやき返した。

あとで、聞いたところによると、朝、先生は連絡帳を見て、話を聞いてくれて、昼休みの時間に、MとSのふたりは「悪口言ってごめんなさい」とあやまってくれたのだそうだ。それで子どもは「いいよ」と許してあげて、「でももうしないでね」と言ったのだそうだ。「でもまたするかもしれないとぼくは思うけど」、何はともあれ、あやまってもらったので、子ども、ご機嫌よろしいのだった。

それから授業がはじまって、窓から眺めてたんですが、にこにことしあわせそうな子ども、「ママ、帰りはどこで待っててくれる?」とか、授業中にきいてくるな。
うすうす気づいていたんだけど、今日、確信した。この子ども、しあわせだと勉強せん。きっと頭のなか、まっすぐパライソに行くんだべ。

足もとの床に、日差しが差し込むのを見て、指で影絵つくって遊んでる。
国語の授業はかさこじぞう。
教科書も開いているし、ノートもとっているが、先生の質問に対して、書いている答えはとんちんかんで、ぼくの耳に聞こえたのはきっと、先生の質問ではなくて、ぼくがたまたま気になったこと、なんだろな。

ところで、隣のMちゃんは、おそろしく不機嫌な顔をして、ノートのマス目を黒くぬりつぶしている。その隣のSくんは、なんともいえないすさんだ顔をして、ノートに鉛筆で、ぶちぶち穴を開けている。

クラス全体は、いい感じで授業がすすんでいる。後ろの3人だけが、あきらかに流れからこぼれ落ちている。ひとりは勝手にパライソ行ってるし、あとのふたりは、それぞれの不機嫌な場所に孤独に沈んでいるが、ノートの字の汚いことと、先生の話を聞いてないことは、3人とも一緒。

授業のあと、子どもと、「じゃあ1時間後に歩道橋の下でね」と話している間も、Sがうしろにはりついている。私の子どもをかまう以外に、身の置き所がないか、子どもが私に何か言いつけて、それが親の耳にはいるんじゃないかと警戒しているか、どっちかなんだろうが、どっちにしても、しんどかろう。

とりあえず、何も知らないふりしといてやる。

夕方、担任の先生から電話もらう。すぐに対応してもらってありがたいことでした。

ところで子ども、パライソから降りてこん。
宿題が全然手につかない。チーズのサンドイッチつくって食べて、図鑑読んで、地図帳ながめて、「ママ、人生最高のデートのことなんだけど、来週はどうかな」とか、思いつきを言ってみたり(映画見るんなら春休み、って言ってるのにっ。)床に空き箱のビルを並べて、ミニカー走らせて、信号機つくったりをはじめて、叱られると、そのときだけ、机に向かうが、またうっとりと地図帳ながめて、
ごはんの時間になっても終わってない、8時になっても終わってない、床も片付いてない。

「おまえさ、空気読めないだけじゃなくて、時間も読めないんだろ。KYのうえにJYだな。いま何時よ。いつ片付けて、いつお風呂入って、いつ寝るのよ。もう宿題なんかしなくていいよっ」
とおかーさんに叱りとばされて、
「いまやるよっ」と逆ギレしたもんだから、パパにも叱られて、泣きながら残りの宿題片付けていたが。

うすうす気づいていたが、確信した。きみは、しあわせなときより、叱られて泣きながらのほうが、集中して勉強できるよ。