その日のうちに

午前中、押し入れにもぐって捜しもの。思いがけず、ついでに出て来た古いノートや資料や手紙類に、ふいに動揺する。亡くなった人からもらった葉書なども。こんなもの見たら、日常生活に支障をきたしそうなので、早々にまた段ボールにしまって、見えないところへ押し込んだ。
いつか、そのうち、処分しなければ、と思いつつ。

引っぱり出したのは十数年前の海外旅行雑誌。それのコピー書いていたのだ。2年ぐらいで廃刊になった。だんだんモノクロページが増えてきて、こりゃ危ないなと思っていたら、そのうち小さい旅行会社がたてつづけに潰れる、という事態になって、私の仕事もなくなった。
最近、子どもが海外の街の話をしきりとするから、写真でも見せてやろうと思って、さがしたら出て来た。
子ども、さっそく夢中になった。「へええ、ラスベガスは24時間眠らない街なんだって」
ほんっとに、ろくでもないこと書いてるよな。読むな。覚えるな。



ところで。
今年のクラスは穏やかみたいで、今のところ何にもトラブルがない。通学班の子どもたちが、去年はたくさん同じクラスにいて、やっかいだったのだが、今年はひとりも同じクラスにいない。
子どもは朝、ひとりで家を出て行けるようになったし、安心していたんだが。

帰ってきて、「いやなことがあった」と言う。「いじめられたわけじゃないけど」
同学年のSくんにランドセルをひっぱられて、Mちゃんと転校生のKちゃんの習字道具ももたされて、坂道のぼったのらしい。
それはじゅうぶん、いじめられてるって言う。

さてゆこうか。クラスもちがうので、担任に言う前に、もう家を訪ねたほうがはやい。その日のうちに解決しよう。夜、家族そろって一軒ずつまわっていった。

Sくんち。Sと姉は、互いに密告しあうので、S母にメールしとくと、ほぼ正確な情報を手に入れられる。Sがランドセルをひっぱって、そのランドセルの上にS姉も荷物をのせたらしい。

転校生のKちゃんち。何をしたの、とお母さんにきかれて「習字道具もたせた」ってちいさな声で言う。どうしてしたのってきかれて、「重かったから」って言う。私の子どもの1.5倍くらいあなたは体が大きいんですが。
まあ、あやまってくれる。「水筒のひもひっぱったり、習字道具もたせてごめんなさい」って、水筒のひももですか。

Mちゃんち。出て来たお母さん、私たちの顔見るなり「また何かやったんでしょうか」ってきくのがおかしい。ええ、やったんです。

ひとりずつ謝ってもらって、「いいよ、でも、ぼくはもう荷物はもちません」って子どもは言って、それから、パパは、見回りパトロールのおじさんでもあるので、「みんなも、いやな思いをすることがあると思うけど、いやなことあったら、がまんせずに言っていいんだよ、言うんだよ、ひとりで言えなかったら、おじさんが一緒に行ってやるから」と声をかけると、なぜかみんな、SやMはひとしきり、うんうんとうなずいていた。
みんなそれぞれ、たいへんなのね。

「あやまってくれてよかったけど、またやるんじゃないかなあ、と心配」と子ども。そのときはまた、今日みたいに、みんなで一軒一軒まわるさ。

楽しい散歩でしたっと。