忘れ物

玄関の戸は重くてきしんで開けにくい。
ので、子どもは呼び鈴を鳴らして待っている。ので戸を開けてやるが、
すぐに入ってこないときはわけありである。今日は傘をたたんでも、まだ外に立ったままで、
「あー、今日は雨だったから、ぼくはあわててしまって」などと言う。
学校には水筒を、バスのなかには体操服と上履き袋を、
忘れてきたらしい。
雨だったから。

トンネルの向こうの営業所で預かってくれていればいいが、そうでなければ、終点の、どこにあるかわからないが、とんでもない山奥のほうまで、取りにいかなければならないのではないだろうか。
夕方、パパと息子は、学校に行き、さらにトンネルの向こうの営業所に行き(あったよ、よかったね)忘れ物を回収して帰った。

ここらの小学校は2学期制らしく、今日が1学期の終わり。「よい子のあゆみ」というのをもらってくる。「できた」と「もう少し」の二段階評価なんだね。体育の運動技能が「もう少し」。これはしょうがない。
あとはなんとかなってるのか。

運動会の練習もなんとかやっているらしい。「運動会の踊りがおもしろい」と言うので、私は耳を疑ったことだった。去年までは突っ立っているだけがせいいっぱいだったのだが、真似して動く、ということが、どういうことか、少し呑み込めてきたらしい。
なんか動いていれば、いいよ。パパもビデオをまわすかいがあろうというものだ。

10月です。金木犀が咲いていて、雨まで降ってきて、なんかもう、どんどん追いつめられていく気分だ。雨ばっかりで布団は干せないし、衣替えまだだし、片づいてないし、本棚こわれてるし、廊下の床板の沈み具合がひどくなってきて、そのうち穴あきそうだし、あくまえになんとかしなきゃいけないが、どうしよう。服のボタンがとれてるとか、ズボンの穴をなんとかしてくれとか、洗濯物の山は、私はいっこうに気にならないが、パパは頭にくるらしいから畳まなきゃいけないとか、こうして、ひとつひとつ思い出していくと思い出せるんだが、こんな夜中に思い出しても何もできないや、どうして昼間は思い出さないんだろう。あ、畑の茄子とかぼちゃ、収穫するの忘れてるし。

子どもが着替えの途中で、パンツもはきかけたまんまで、目にとまった本を読み出すとか、片づけていたはずが、途中でまた新しい遊びを思いついて、さらに散らかってしまうとかしてるけど、なんか、私もすっかりそんなふう。それで、本当は何をするんだったのか、思い出せない。

忘れるのだ。
あー、雨だったから。