宿

9年前の同窓会には行かなかったから、高校卒業以来かと思ったら、働きだした頃の話を聞いた記憶があるから、20代のころに一度会っているのかもしれない。意外に地元に残っていて驚いた。卒業したあとは、みんなひとたびはここを出て行ったのに。
「おまえ、へんだったよ」「かわってたよな」「宇宙人だった」「でも人に危害はくわえてないから心配すんな」といわれるところをみると、アスペルガーなんだろな、やっぱり。
「すきだったんだよ」と言われて仰天する。
ぜんぜん知らんかったよ。蛙のキーホルダーくれた。蛙。

帽子をまわしたら、千円札も百円玉もいっぱい入れてくれてありがとう。南高3年6組有志、でパアラランの帳簿につけておくねー。
ありがとう。やさしい同級生たち。なつかしかったよ。元気でね。



宿泊の話。

死んだくーやんの行きつけだった喫茶店は、なんでこんな場所に客が来るかわかんないが、けっこう繁盛している。まんが本とか、子どものためのおもちゃとか絵本とか、そういう心配りがいいのだよね。無駄にだだっぴろく、テーブルと椅子のかたちが全部違うとか、適当な寄せ集め感も、なかなかいい、といえばいい、かも。
お店のおねえちゃん、ものすごく働き者。

宿泊は、その喫茶店と同じ建物のなかにあるビジネスホテル。このホテル、3泊したんだけど、すごいぞ。
受付に人はいない。喫茶店にいるおねえちゃんを呼びに行くのだ。このおねえちゃんと、あとふたりくらいのおねえちゃんが、同じ建物のなかにある喫茶店と焼き肉屋とホテルを走り回って、働いているふうなのだった。
ホテルの宿泊客は、私たちのほかには1組か2組か。なぜわかるかというと、宿泊客の鍵、フロントに置きっぱなしなんだよね。ここに置いておくから勝手にもってって、みたいな。ときどき、近くに工事に来た人たちが泊まったりとか、するみたいだけど、あんまりふつうの客は泊まらないかも。

葬儀場と焼き場、ほかには、町工場とラブホテルがぽつんぽつん、とある山沿いの草のなか。外観はつぶれたラブホ。通りから見ただけでは、営業している、とはまず思えない。で、まあ、そこに泊まった。ツイン7000円。子ども料金、+500円。

鍵があいてるからのぞいたけど、ひと部屋ひと部屋つくりがちがう。調度品も違う。いろんなとこからかき集めてきて部屋にしてみました、みたいな。
パパが以前シングルに泊まったときは、時計の液晶が壊れてて、時間がよめなかったけど、今度泊まった部屋は、時計が2時間の時差だった。おもしろいからそのままにしといたわ。

きっとさ、ここはたぬきさんたちが経営してんだよ。で、お客さんが来ますっていうんで、はりきって準備してくれたんだけど、時計までは気づかなかったんだな。みたいな話をする。

アメニティはふつうのホテル。電子レンジあり、冷蔵庫のなかには無料のミネラルウォーターあり、インスタントコーヒーもあり、なかなかいい。ピーナッツとかつまみの類がおいてあるのも、すばらしい。
エアコンがうるさいのが、フィリピンの安ホテルを思い出したけど、 気にしなければ気にならない程度。
廊下にはエアコンは入ってない。

で、まあ気楽に過ごしていた。子どもは喫茶店の絵本借りてきて読んでるし。

それでクラス会終わって深夜0時、タクシー拾って帰ろうかと、電話したら、迎えに行く、とパパが言う。なんでも、ホテルのモーターが壊れて、客室の水が出ないんだそうだ。それで、ボトルに水入れてもらって、運んで、子どもはそれで体洗って寝かせたけど、近くのラブホテルのお風呂を借りれるようにしてくれたから、行こう、という。
というわけで、ねぼけた子どももつれて、ホテル愛、に入っていくと、腰が90度にまがった小さなお婆さん出てきて迎えてくれる。

なんかもう、おかしい。

たぬきのお宿、そろそろ魔法がきれるんじゃないか、とか言っていたら、翌朝、洗面所の電気が切れてるし。笑った。

外に出たら、働き者のおねえちゃん、走ってきて、昨日はすみませんでした、と3000円キャッシュバックしてくれる。
いえいえ、これだけ笑わせてもらったら。

良心的です。いい宿だ。