草刈り

朝7時半、義父さんやってくる。畑にきゅうりができている、とうれしそうに言う。
農場主は、もうさっぱりかえりみない畑のことを、気にかけてくれているらしく、大学の用事が終わったら、草刈りしてくれるらしく、電動草刈り機持参。

りくは起きるなり、机に向かって紙に何かをかきはじめ、また寝る。
あたまに置いた紙には、半円のなかに、自分の名前とU・S・Aの文字。手にもった紙には花の絵。トムとジェリーあたりが出典だろうな。
お墓ごっこするなっていうのに。

目を閉じて笑いをかみ殺して、死んだふりしている子どもの顔が、死んだふじこの顔に似ていて、ふと胸がつまった。
いとこの娘。私よりすこし年下で、脳性麻痺で寝たきりで、17歳で死んだ。私は彼女の傍らにいることが好きで、どれだけ救われてきたかしれない。高校生のころ、張りつめていたり尖っていたり、ゆがんでしまっていたりする自分が、彼女の傍らにいるうちに、しずかに自分自身にもどってゆける感じがした。ふじこはなんにもきかないので、私もなんにも嘘を言わずにすんで、それはもう、それだけでも、とてもほっとすることだった。

ふじこの傍らにいる気がした。ああ、なつかしいなあ。
でも起きろ、そろそろ。墓場からよみがえる時間だよ。

午後再び来てくれた義父さん、孫の畑の草刈りに精を出す。草刈り終えて、帰ってゆかれました。

夕方、今度は子どもを連れて、公園の草引き。子ども会の奉仕作業。スコップもたせたら、草引かずに、地面に穴ほって遊んでいる。

「りくしくんの畑、おっきなきゅうりができてるなあ」と町内会長。
きゅうり、支柱がみじかいので、地面を這ってる。農場主には見捨てられている畑だが、義父さんといい、おじさんたちが気にかけてくれる。

「もっと遊ぶ」というから、「いいよ遊んでて。ママ先に帰るけど」って言ったら、「ぼくひとりだと、帰れない」と言う。あー、「毎日、学校から帰ってるでしょう」「だって、学校から帰るときは見回りパトロールのおじちゃんたちと一緒だもん。ひとりじゃ無理だよ」
って、ほんの200メートル300メートル……。

夏休みは毎朝ラジオ体操ここであるんです。6時半から。私、毎朝つきそいするんでしょうか。「ぼく、ラジオ体操できないよ」ぐすぐすぐす。できないだろうなあ。