きよくそうしつ

週末はママがどっか行って、そしたらその間、ぼくとパパは、ネバーランド(という玩具屋)に行って、NゲージやBトレインを走らせるんだ、と思いこんでいたらしい。
ところがママはどこにも行かないし、パパは忙しそうで朝からいないし、しかも大雨、やっと帰ってきたパパは、疲れたといって寝るし、ぼくの予定はどうなってしまうんだ。
それでしつこくネバーランドネバーランドとまとわりついて、叱られて泣く。そのしつこさたるや、
「おまえなあ、だれか女の子好きになっても、みんな逃げていくぞ」
とパパに言われてる。うんうん。
行けない、行かないっていうのは、もう金曜日からずっと言っているのに、聞きたくないことは耳にはいらないという、しあわせな耳め。

気持ちの切り替えが難しい。アスペルガーの弱点ではある。

すねた子ども、紙になんか書いてもってくる。

「いまでもぜんこくで きよくそうしつが はやっています」

きよくそうしつ?
きおくそうしつだろう。
というと書き直している。抗議文らしいが、意味わかってるのかな?
よくそういう理屈を思いつくよな。
それで、何がいいたいんだよ。

抗議文を提出したあとは、すねて机の下にもぐっている。
ふん、そんならこっちにだって考えがある。

「パパ、きおくそうしつ、はやってるんだって。私もきおくそうしつかも。りくっていう男の子が、この家にいたってこと、忘れちゃったかも。パパ、おぼえてる?」
「わしもきおくそうしつ。ネバーランドへいく道、忘れた。思い出せないから、もう行けない。もう二度といけない。」
「いかなくていいんだよ。だって、りく、いないんだもん。どんな子だったか、もう忘れちゃったし。」

すると机の下から、「ブッブー、ぼくはここにいますよー」って、言うあたりがまだかわいらしいわね。

出てこい。ものわかりのわるいやつ。

だけど、はやってるんだって。きよくそうしつ。
はやってるかも。