はかなくきえてしまう

学校からもらってきたチラシのなかに、今月末の休日に、大きな公園で段ボールの家やべっこうあめをつくってあそぼう、というようなイベントがあって、
ぼく、行きたい、と子どもは思ったわけだった。
あいにくその日、私は都合が悪い。パパもあれこれ用事があって一日子どもとつきあってられない。
無理だよ、と言ったら、子ども、かなしくて泣き出した。
さて、これを納得させるのが。

ほらさ、これはもっと大きい子どもたちが遊んでたのしいんだよ。りくはまだ小さすぎるよ。小さいお子さんは保護者ときてくださいってあるだろ、保護者と来てくださいってことは、カッターで段ボール切って、組み立てるのは、保護者がする、べっこうあめつくるのも、保護者がする。パパがつくったって、りくはおもしろくないし、パパはそもそも遊びたくないから、パパもつまらない。ふたりともおもしろくないよ。だから、こういうのは、りくが3年生ぐらいになって、もっと楽しめるようになってから行くといいんだよ。

そんな説明で納得できるはずもなく、それでも、親たちが都合が悪ければ、無理なのだという現実はなんとか認識して、葛藤している。

「だけどだけど、ぼくが大きくなったときには、ダンボールハウスであそぼうっていうのがないかもしれないじゃないか。」

たしかに、ないかもしれないけれど、実際のところ、大きくなってダンボールハウスで暮らすなんてことは、ないほうがいいと思うよ。

段ボールの家、何年も前につくってやったのがひとつあって、いまも時折、ひっぱりだして、なかにもぐって、売店ごっこして遊んだりしているけど。とりあえずそれでがまんしとこうよ。

「だけどだけど…」
と、ぐずぐず言っていたが、ついにもらってきたチラシをやぶりはじめた。すごくけわしい顔で破って、捨ててきて、言うには、

「もしぼくを、そとにだしたら、これまでのたのしいおもいでも、ママとぼくをつないでいたハートも、ぜんぶ、はかなくきえてしまうんだ」

? もしぼくを外に出したら、ってそんな話はしていないが、
あれだな、これ以上ぐずぐず言ったら、「おまえみたいなやつ、出て行け」って、パパに言われると思って、予防線はってるんだな。

膝にのってきてしくしく泣く。
「はかなくきえてしまうんだからね。それでもいいの、ママ」
そうだねえ。はかなく消えたら悲しいねえ。
ほんとによほど悲しいんだな。

だからさ、機嫌なおして、またハートをつなごうよ。

「むりだよ。ぼく、かなしいから、ママのハートがここまできても、こっからははいってこれないで、はじきかえしちゃうんだ」

そうか。ハートがつながらないとなると、明日は一緒に大阪行けないと思うよ。交通博物館行けないよ。どうしようか。

「あ、ハートつながったよ。ばっちり」

いきなり笑顔。