月の運転手

昨日、街へ降りる。
義父母とお昼ごはんのあと、ちびさんとパパは駅へ。500系新幹線のラストランを見るんだそうだ。まだすこし時間がはやかったのだが、ちびさん、駅員さんに帽子をかぶせてもらってうれしそう。
駅なんか全然楽しくない私は、あとで合流することにして、別れた。

ちびさん、新幹線たくさん見て楽しかったらしい。けっこうな人出だったらしい。ちびさん、新幹線にクラクション鳴らされて、叱られたんだ、という。ホームは人がたくさんで、新幹線の音はうるさくて、人ごみのなかで、パパの姿を見失ったちびさん、どうやらパニックになったらしいんだな。耳をふさいで、ふらふらして、うずくまってしまった。
(ああ、そりゃどんなにあぶなっかしく見えることだろう)
幸いパパからは、ちびさんの姿は見えていたので、すぐに人の少ないほうのホームに連れていった。
そっか、もっと小さいときは、パパに抱っこされて見ていて、ひとりでホームに立って見るなんてことはなかったもんね。
気をつけてあげないといけないなあ。新幹線はやっぱり、見るもんじゃなくて乗るもんだよ。

ちびさんが、駅のホームでパニックになってる頃、私は市電を乗り間違えてパニックになっていた。
どうもね、人の多いところとか、車の音のうるさいところとか、ぼうっとしてしまうんだな。行き先確かめずに、やってきた電車に乗ってしまった。東京でもよくやって、何度も泣きそうな思いをしたが、知らない土地でなく、こんなに慣れた場所でまたやってしまったと思って、余分に払った150円がくやしい。歩こうかと思ったけど、それもしんどいので、また乗った。

夕方、昔のバイト先のお店で落ちあう。空き地のふきのとうと、川で摘んだクレソンもっていって、ハンバーグとお菓子もらって帰る。食べたお好み焼きの代金、マスターがいるときはとってくれない。
たまたま店にいるとき、東京にいる上の娘から電話がかかってきて、何十年ぶりに話したわ。私が大学生で彼女が高校生だったとき、一緒によく働いた。
いま、ウサギを飼っているらしい。
瀬戸内海の大久野島(昔、毒ガスをつくっていた島としても知られている)には野生のウサギがたくさんいるらしく、ママが帰省した娘と一緒に行ったときの写真を見せてくれた。おお、ほんとにたくさんの野生のウサギ。

帰り、車の窓から、ほとんどまんまるの月がきれいだった。
ずっと後をついてくるねえ、と言っていたら、ちびさんが、
「どうして月があとをついてくるかというと、月はずっととおくにいるからなんだ。ずっととおくにいるから、ずっといっしょについてくるんだよ」
と言う。なんかの本にそんなことが載ってたのかな、ずいぶんかっこいいことを言うじゃないかと思っていたら、
さらに自分でも考えたらしく、
「月にはうさぎがいるんだ。だから、うさぎが、月を運転するんだよ。うさぎが月を運転して、あとをついてくるんだ」
と言いながら、自分でその連想が楽しくなったのか、へらへら笑うのだった。

夏休みは、畑のキャベツもって野生のウサギ見に行こうか。月の運転手になるウサギもいるかもしれないよ。