秘密の畑

別に秘密でもなんでもないが。空き地の畑。
でも畑に行こうとして、他の人の姿が見えると、思わず逃げるように引き返してしまう。子どものころ、向こうから知った人がくると、電信柱の陰に隠れていたけど、そのころの習性が出てしまうんだな。
老人会の会長の奥さんが、刈られたカヤを自分の畑に撒くのに、拾っていただけでした。

さてその畑。となりのお姉さんが、っていうか、奥さんだけど、私よりすこし上かな、やってきて、私も畑をしたいという。耕すのが大変だけど、農機具は自由に使ってください、って言っていたら、ほんとに耕したみたいで、となりの空き地の草ぼうぼうのなかに畳半畳ほどの小さな畑が出現して、なすが植えられていた。
うん、これくらい、草におおわれた奥にあると、秘密の畑っていう感じがする。

バーネット夫人の「秘密の花園」は子どもの頃の愛読書だった。足の悪い男の子が、秘密の花園で歩けるようになるんだよね。秘密の場所であることが大事なのだ。そういう秘密の花園があれば、私もそこでなら、きっといい子になれると思った。
学校も世の中もジャングルのようで、あっちでも人とぶつかり、こっちでも人とぶつかり、叱られたりののしられたり、しかも何が起こっているのか何にもわからず、それでもわかんないまま、生きてみなきゃなんなかったのだ。
子ども時代にもどるなんて、そんなしんどいこと絶対いやだが、そんなしんどいことを、今私の子どもはしているのだなあ。
ああ、ご苦労さんだ。

あのさ、友だちとうまくいかないなと思ったら、叩かれるのやだなと思ったら、黙っときなよ。一緒に遊ばなくてもいいんだよ。友だちが絵がじょうずで人気者だとしても、だからって君が絵をかいても人気者にはならない。
同じことを言っても、大きい子が言うのはよくても、小さい子が言うと叩かれたりする。君は小さいから叩かれやすい。学校でいちばん小さい。しょうがないんだ、小学校はジャングルだから。
でも大丈夫。ひとりでもさびしくならないよ。ご本を読めばいいんだ。ご本を読むのが楽しくなると、一生さびしくない。
そうして20年か30年たったら、きっとほんものの友だちができる。ほんものの友だちは君を叩かないよ。

みたいな話を、朝してたんだけどさ。
秘密の花園」でなくてもいいんだが、彼は彼なりに、ジャングルのなかに、秘密の畑をつくらないといけない。

今日は叩かれずに帰ってくるだろうか。今度叩かれたら、席替えお願いする。